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●アルバイト(3)

記事No.254  -  投稿者 : アロエ
2015/09/03(木)20:23  -  [編集]

「どうかした?」
 山岡からの声で、渉は現実へと引き戻される。
「い、いえ……別に……」
「じゃあ、そろそろ始めてもいいかな?」
「………」
 三脚に設置されたビデオカメラと、壁を背にして対峙する自分。あの時と、全く同じ構図。
 あの日、男の手によって初めて射精へと導かれた記憶が、生々しく蘇ってならない。己のプライドを散々に踏み躙られ、もう二度とこんな愚かな誘いになど応じはしないと、強く誓ったはずであった。だが結局、待っていたのは底知れぬ泥沼への道。一度知ってしまった大金の誘惑は、例えどんなに身も心もを穢されようとも、断ち切る事は出来なかった。
「言いたい事があるなら、今の内だよ」
 暗い表情の渉へと、山岡が言ってくる。
「せめて何をするのかくらいは、最初に教えて欲しいんですけど」
「前にも言ったけど、今岡君の初々しい反応を撮りたいんだ。そこんとこは、理解してよ」
「だからって……この前みたいなのは、もう絶対に嫌ですから……」
「やっぱり、怒ってる?」
「金さえ払えば、俺が何でもすると思ってんっすか?」
「申し訳ない」
「………」
「俺だって、ああいうのは撮るつもりなかったんだ。だけど顧客から、そういう要望があって仕方なかったんだよ」
「仕方なかったで、こっちは全然済まないんですけど」
 一応は謝りながらも、山岡にはまるで悪びれる様子もない。そんな山岡の態度が、余計に渉の神経を逆撫でさせる。
(マジで、あん時にブン殴ってればよかった)
 金をチラつかされ、あの日から何度となくカメラの前で痴態を晒し続けた。そして回を重ねるごとに、エスカレートしていった山岡からの要求と行為。数々の恥辱に渉は耐えながらも、これで報酬が得られるならと、今までは必死に割り切ろうとしてきた。だがそれでも、前回の撮影で強いられた行為は、未だ渉の中で後悔と苦悩が渦巻き続ける。己がいかに人として最低の姿にまで堕ちたのかという事を、痛烈に思い知らされる結果となった。
「今回は、ちゃんと君の意志を尊重するから。安心してよ」
 いつ俺の意思を尊重してくれたと、思わず渉は叫びたくなってしまう。だがそれでも、この男の思惑に今日もまた応じてしまった以上、今さら何を言っても無駄だと、渉は諦めるしかなかった。
「だけどさ、この前の作品はかなり評判がよかったんだよ。出来ればまず最初に、あの時の感想とかをインタビューするシーンから、始めたいんだけど」
 山岡からの求めに、渉は戸惑う。
「何で……そんな事……」
「あの時は、もう今岡君すっかりテンション下がってたからね。俺もさすがに撮影の続行は諦めたけど、今なら大丈夫だろ?」
「答える気にもなれませんよ……あんなの……」
「頼むよ」
「………」
「ギャラも弾んだんだし、それくらい構わないだろ?」
 前払いで報酬を渡しているためか、山岡は強気にくる。
 そんな山岡の執念に、渉は怒りを通り越してすっかり閉口してしまう。
「答えるって……あんなのを、どう言えってんです……俺の中じゃ、ただのトラウマでしかありませんよ……」
「別に、演技をする必要はないさ。ただありのままに、答えてくれればいいから」
「………」
「じゃあ、始めるからね」
 まだ渉は同意した訳でもないのに、山岡は強引に話を打ち切ると、ビデオカメラの電源を作動させてきた。
 今日もまた、新たな撮影が開始される。
 鬱屈した気持ちを無理矢理に押し殺し、三脚に立てられたカメラへと、渉は無言で向き合う。一刻も早くこんな時間を終わらせるためにも、今は撮影をいかに凌ぐかという事に、考えを集中させねばならない。
 沈黙の中、スポーツウェア姿の渉を、固定されたカメラが撮り続ける。
 やや目を伏せながらも、渉は直立不動のまま、カメラの背後に立つ山岡からの行動を待った。
「はい、こんにちは」
 やがて冒頭の始まりを告げる様に、山岡は渉へと他人行儀な挨拶をしてくる。
「こんにちは……」
「今日は、久しぶりにトイレの中で撮影してる訳なんだけど、この場所は覚えてるよね?」
「はい」
「懐かしい?」
「まぁ……そうですね……」
「どういう場所なんだっけ?」
「えっ……」
「今回、初めてこれを見てくれてる人もいるだろうし、改めてここがどういう場所なのかを、君から説明してもらえるかな?」
 山岡からの指示に、やや悪意を感じてならない。
 だがそれでも、一度撮影が開始された以上、カメラの前で渉は従順な少年でいなければならなかった。
「その……僕が、こういうのを初めて撮影した場所です……」
「どういう撮影を、ここでしたんだっけ?」
 渉へと、すかさず山岡が質問を掘り下げてくる。
「カメラの前で……チンコを勃起させて……射精しました……」
 内心では苛立ちを募らせながらも、渉はたどたどしく、ありのままの事実を答えた。
「あの時は、すごく緊張してたよね」
「はい……」
「でも今はもう、こういうの慣れたでしょ?」
「慣れたって程でも……やっぱ、まだ緊張はするっていうか……」
「だけど前回は、あんなに大胆な事も出来る様になったじゃん」
「………」
 否応なく、渉の表情がより強張っていく。
「分からない人のために、どういう事をこの前はしたのか、説明してあげて」
 撮影前の平身低頭な懇願とは打って変わり、穏やかなインタビューの体裁を取りながらも、山岡は徐々に渉を精神的にいたぶっていく。 
「ホテルで……その……裸になって、色々撮影して……」
「それから?」
「それから……」
 渉は、言葉を詰まらせる。
 だが窮しきった渉に対し、山岡がフォローを入れてくれる気配はなかった。苦悩する渉の姿へと、ただ淡々とカメラを向け続ける。
 そんな山岡を前にして、渉は返答する以外になかった。
「浣腸をして……風呂場で、洗面器に……出しちゃいました……」
「ここまできたら、もっとハッキリ言っちゃおうよ」
「………」
「ほら、何を出したの?」
「ウンコを……出しました……」
「あれ、すごかったよね」
「………」
 堪らず、渉は顔を深く俯ける。
 思い出すだけでも、心が折れそうになってしまう前回の撮影。カメラの前で散々に身体を弄ばれた揚句、何ら予告もなしにいきなり浣腸を押し込まれた。あの時の驚愕と、肛門内部へ薬剤を注入された感覚が、今でも鮮明に思い起こされる。事の重大さに気付いた時には、もはや後の祭りであった。
(あんなのを見て……こいつらは、喜んでいるのかよ……)
 考えるだけで、渉はおぞましさに身の毛がよだつ。
 強烈な腹痛と便意に耐え続ける事はついに出来なくなり、カメラを構える山岡の前で、渉は脱糞せざるを得なかった。あの時のすさまじい屈辱と惨めさに、今もまた目頭が熱くなってきてしまう。
「君ってスリムな身体なのに、出す時は結構いっぱい出すんだね」
 そんな渉へと、山岡が容赦なく言ってきた。
「あの時は……浣腸を入れられたから……」
「人前でウンコをするなんて、初めての経験だったでしょ?」
「はい……」
「どうだった、感想は?」
「恥ずかしくて……堪りませんでした……」
「でもウンコがドバドバ出るとこを、バッチリ撮影されちゃったよね?」
「………」
「嫌だった?」
 あえて山岡は、そう問いを投げ掛けてくる
 ここまで追い詰めておきながら、山岡がどんな返答を自分に求めているのか、渉は考えずにはいられない。
(俺に……変態になれってか……)
 どう答えれば、この作品を見る者達が喜ぶのか、それを山岡は暗に要求しているのであろう。だがそれでも、あんな行為をさせられて嬉しかったなどとは、絶対に言いたくはない。
「出来れば……もう、したくはないですけど……その……」
「何?」
「カメラで撮られながら……恥ずかしいけど、すごくドキドキしました……」
 それが、渉にとって最大限の妥協であった。
「恥ずかしい事をさせられると、興奮しちゃうんだ?」
 すかさず、山岡が言ってくる。
「わ、分かりません……」
「それじゃあ、今日もいっぱいエッチで恥ずかしい事をしちゃおっか」
「………」
 ようやく、インタビューはこれで終了の様であった。だが同時に、いよいよ撮影は本題へと移っていく。
「まず、服を脱いで」
 気を休める間もなく、山岡は渉へと指示を出してきた。
「脱ぐって……全部ですか……?」
「うん」
 事もなげに、山岡は言う。
 今さら、渉もこの程度の要求で戸惑う事はなかった。だが、野外の公衆トイレというこの状況に、不安を抱かずにはいられない。
 出入り口の戸へと視線を向け、鍵が掛けられている事を改めて確認する。
(迷ってても、どうしようもない)
 さっさとこんな撮影から解放されるためにも、山岡の要求通りに従うしかなかった。今は、この男の危機管理能力を信じるしかない。
 覚悟を決め、渉はまず履いていたシューズと靴下を脱ぎ、床へと裸足になる。
 従順な渉の様子を、山岡はカメラの背後で満足そうに眺めていた。
 やがて渉は、衣服へと手を掛ける。
 上着、ズボン、Tシャツと、着ていたものを次々と脱いでいきながら、壁のフックに吊るしていたバックの上へと積み重ねていく。どうせ最後は恥ずかしい思いをする事に変わりはないだけに、ここで躊躇っていても何の意味もなかった。
 サッカー部の練習で引き締まった肉体と、日焼けした健康的な素肌が、カメラの前で露わとなっていく。
 最後に、残るはトランクスのみとなった。
 だが渉は、穿いていたトランクスをそのまま、ごく自然に引き下ろす。
 ついに一糸纏わぬ姿となった渉は、前を隠す事もせずに、無表情でカメラへと向き合う。
 慣れたとは、思いたくなかった。それでも、幾多の経験ですっかり感覚が麻痺してしまったのであろうか。カメラへと全裸を晒す事に、今やさほど精神的苦痛を感じなくなっている自分がいた。
 そんな渉の裸体へと、山岡の熱い眼差しが浴びせられる。
「こういう場所で裸になって、どう?」
 山岡が、口を開く。
「そうですね……やっぱ、外が気になります……」
「誰か来ちゃったら、大変だね」
「………」
 命じた張本人が、渉の恐怖を煽ってくる。
「でもまだ、そのままジッとしてて」
 山岡はそう指示すると、床に置いていた自分のバックへと手を伸ばす。中からもう一台、小型のビデオカメラを取り出してきた。
 いよいよかと、渉の中で緊張と不安が高まっていく。
 三脚に設置したカメラを残し、山岡は渉の傍らへと移動してくる。
 フレームとの位置関係を気にしてか、何度かカメラへと視線を向けつつ、山岡は渉の横に位置してしゃがみ込む。
 間近にまで迫る山岡に対し、渉は前を向いたまま平静さを保たせる事に努めた。
 山岡は手にした別のカメラを、露わとなる渉のペニスへと向けてくる。
「最近、彼女とエッチはした?」
 垂れ下がる陰茎へとレンズを向けたまま、山岡は問うてきた。
 思わぬ言葉に、渉は狼狽してしまう。
「お互い……色々忙しくて……最近は、まだ……」
「彼女、寂しがってない?」
「さぁ……どうでしょ……」
「だったら、最近は一人でオナニーばっかなの?」
「は、はい……」
「ちゃんと相手してあげないと、だめだよ。こんな立派なのをお預けにされちゃ、彼女だって毎晩一人で寂しく、オナニーしてるかもよ」
 恋人を侮辱する様な山岡の言葉に、渉は怒りを覚えずにはいられない。
 だが次の瞬間、山岡は左手でカメラを構えたまま、そんな渉の股間へと、右手を素早く伸ばしてきた。
(っ……!)
 山岡が、渉のペニスを摘み上げる。
 渉は息を呑み、山岡の行為をただ見守る事しか出来なかった。
 そんなペニスを摘まんだまま、山岡はゆっくりと手首を動かし始める。未だ柔らかなその陰茎が、山岡の手で静かに扱かれていく。
 包皮と亀頭が擦れ合い、ピリピリとした感覚が走る。
 渉は、ギュッと瞼を閉じた。
 最初は、慎重な手付きで刺激を加えてくる山岡であったが、渉の様子を窺いつつ、しだいに手の動きを活発にさせていく。
 それまで無言のまま、山岡の行為にただ身を委ねる渉であったが、股間への感覚が強まっていくに従い、呼吸が乱れ始める。山岡に対する激しい嫌悪を抱きながらも、その一方で身体は急速に火照ってきてしまう。
(こんな奴に……俺は……)
 手慣れた山岡の性技に、血気盛んな少年の肉体は、あまりに素直な反応を示してくる。
 徐々に硬く、膨張し始める渉のペニス。熱い疼きと堪らないもどかしさが、山岡に弄られながら渉の中で増していく。
 すかさず山岡は、そんなペニスを掌でしっかりと握ってきた。
「あっ……」
 渉は表情を歪ませ、吐息混じりのか細い声を洩らす。
「もう、興奮してきちゃった?」
 頃合いを見計らう様に、山岡が言ってくる。
 渉は、反論出来なかった。
「ちょっとの間に、君もすごく成長したもんだ」
「………」
 何気ない山岡からの一言。だがその言葉が、渉の心を苛ませる。
 山岡は五本の指をしっかりとペニスへ絡めながら、露骨な変化を見せ始める幹を、より大胆に扱いていく。
「んぅぅ……あぁっ……」
 密室の空間に、少年の妖艶な喘ぎが響き渡る。
「気持ちいい?」
「は、はい……」
 理性とは裏腹に、渉はそう答えずにはいられなかった。昂ぶる欲望と快楽への衝動が、いつしか少年の心を突き動かしていく。
「だけど、まだ我慢してね」
 山岡からの言葉に、思わず渉は困惑の色を浮かべてしまう。
 すると山岡は、ここにきてペニスからあっさり手を離してきた。
 突然に刺激が中断され、渉の中で高まっていた疼きが、途端にその勢いを失速させていく。煽られた欲望は出口をなくし、渉はその歯痒さに耐えねばならなかった。
 山岡は手にしていたカメラで、改めてじっくりと、渉の股間を撮影してくる。
 怒張し、猛々しく反り返ったペニス。
 そんな己の股間へとレンズの焦点が合わされながら、渉の表情は苦渋を滲ませていく。
 冷静でいる事が、今はもう耐えられなかった。どんなに受け入れたくなくとも、容赦ない現実が渉へと突き付けられる。一度知ってしまった山岡からの快楽に、身体はもう抑制が利かなくなってしまう。
 やがて、再び山岡の右手が伸ばされる。
 だが山岡は、肝心の部分をあえて無視し、太股の内側辺りへと手を添わせてきた。
 ゾクッと、むず痒い感覚が火照った身体に沸き起こる。
 ゆっくりとした手付きで、渉の太股から股にかけての範囲を、山岡は無言のまま執拗に撫で回していく。
「んっ……!」
 敏感な肌への刺激に、渉のそそり立ったペニスが、何度も大きく脈打つ。
「いいねぇ、元気が満ち溢れてる」
「そこ……くすぐったいです……」
「くすぐったいと、オチンチン感じちゃうんだ?」
「………」
「どんどん、エッチな身体になってきてるね」
 山岡から挑発的な言葉を浴びせられながらも、渉は何も言えなかった。どれだけ悔しさに身を震わせようが、山岡に焦らされ続ける渉の股間は、いっそう熱くなってきてしまう。
 するとそれまでしゃがんでいた山岡が、静かに立ち上がる。
 新たな緊張に、渉は身構えた。
 山岡の手が、そんな渉の胸肌へと這わされていく。
「あっ……」
「ここも、好きだろ?」
 そう言うと、山岡は指先を渉の乳首へと押し当ててきた。
 思わず発してしまいそうになる声を、渉は懸命に堪えようとする。
 だがそんな渉に対し、山岡は指を軽く動かしながら、その小さな突起をくすぐる様に刺激していく。
 グッと、渉は全身を力ませた。
 必死に耐える渉の姿を眺めながら、山岡はかすかに口元をほころばせる。
「指なんかじゃ、物足りないかい?」
 意地悪っぽく山岡は言いながら、渉の胸へと顔を埋めてきた。
「っ……!」
 もう片方の乳首へと、舌先が添わされる。
 指と舌を動かしながら、すでに硬くなり始めていた二つの突起へと、山岡は濃厚な愛撫を繰り返していく。
「んぁっ……んんっ……!」
 悶えながら、渉は大きく身を捩じらせた。
 ねっとりとした舌と息遣いに、痺れる様な感覚が駆け巡る。その刺激に反応して、渉のペニスが力強く跳ね上がった。
 そんな渉を、さらに山岡は執拗に責め立てていく。
「だ、だめです……ホントに、もうやめてください……!」
 敏感な性感に翻弄されながら、渉は泣きそうな声で訴えた。
「乳首だけでも、そんなにいいんだ?」
「お願いです……これ以上、我慢出来ません……」
 もはやこれが撮影である事も忘れ、渉は衝動的にそう口走ってしまう。
「何を、我慢出来ないの?」
「早く……い、イキたいです……」
「そうじゃないだろ?」
「………」
「こういう時は、どういう風にお願いするんだっけ?」
 切羽詰まる渉へ、満足のいく返答を山岡は求めてくる。
「僕のチンポ……ギンギンに勃起して、もう射精したくて堪りません……カメラの前で……思いっきり、ザーメンをぶちまけたいです……」
 上擦った声で、渉はそう山岡へと答えた。
 その言葉を聞いて、山岡は表情を微笑ませる。
 こんなセリフを大真面目に言う事の馬鹿馬鹿しさは、渉が一番分かっていた。だがそれでも、この状況では山岡を喜ばせるために、渉は毎回必死にならざるを得ない。
「どんな感じで、イキたい?」
 渉へと、さらに山岡が問うてくる。
「それは……」
「どうせスッキリするなら、思いっきり気持ちよくなりながら射精したいだろ?」
「は、はい……」
「じゃあ、後ろを向いて」
「………」
 言われるがまま、渉はその場で身体を返して、壁へと向き合う。
「脚を広げて、こっちへお尻を」
 渉の胸が、苦しいまでに鼓動を高めていく。しかし今や、山岡からの求めに対して躊躇いはなかった。上半身を前へと傾け、伸ばした両手を壁へとつかせる。そして足の間隔を広げ、背後の山岡へと渉は大きく腰を突き出す。
 渉の肛門が、山岡とカメラの前にありありと晒される。
 山岡は手持ちのカメラで、まずはその部分を丹念に撮影し始めた。
 両丘の割れ目から覗く、収縮した蕾。カメラのレンズが、そんな秘所へと間近にまで迫ってくる。
(早く……もう、我慢出来ない……)
 理性など、ここに至って何ら意味をなさなかった。恥辱の姿をカメラへと向けながら、それでもなお快楽への衝動は、渉の中でいっそう高まりを増していく。
 やがて、山岡は床のバックへと手を伸ばし、足元へと引き寄せる。そして中から、小さな筒状のプラスチック容器を取り出してきた。
 それだけで、渉の収縮した蕾が、自然と弛緩していく。
 山岡はケースを開けると、渉の臀部の上から、手にした容器の口を傾けた。
 中からねっとりとした透明な粘液が、渉の尾骶骨の辺りへこぼれる。液体はそのまま、肌を伝って両丘の割れ目へと流れ落ちていく。
 ひんやりとした感覚に、全身が鳥肌立つ。だがその一方で、肛門を粘液に濡らされながら、渉の身体は新たな疼きを沸き起こさせる。
 しっかりと蕾を潤ませ、山岡は右手の中指をその部分へと押し当てた。
「あぁっ……」
 それだけで、強張った渉の身体が小刻みに震えていく。
「ほら、入れるよ」
 山岡はそう言うと、指先で触れる渉の蕾に対し、ゆっくりと圧力を掛けてきた。
 本来排泄器官であるその出口が、外部から強引に押し広げられていく。山岡の指が、その中へと静かに侵入してくる。
「んぅ……んぁぁっ……」
 身体の奥底から熱が込み上がってくる様な感覚に、渉は悶えた。
「あんなに怖がってたお尻の穴も、もう今はすっかり感じちゃう様になったね」
 肛門を蹂躙されながらも、ペニスを弾けんばかりに反り返らせた渉の姿を眺めながら、山岡は嬉しそうに言ってくる。
(何とでも言えよ……クソ野郎……)
 もはや、山岡に従う以外の選択肢は残されていなかった。渉はその瞳に涙を浮かべながらも、ペニスの鈴口からはいつしか、先走りを止めどなく溢れ出させてしまう。
 さらに指が、奥深くへと埋められていく。
 渉は脚をより左右へと広げ、少しでも内壁が緩むよう努めた。
 やがて山岡の中指は、ほとんど時間を要する事なく、その根元まで渉の中へと挿入されてしまう。
「全部、入っちゃったよ」
「はい……」
「これで、満足かい?」
「………」
「答えてくれなきゃ、こっちだって分かんないよ」
「も、もっと……」
「何?」
「お尻の中……もっと……激しく、責めてください……」
 撮影を意識した演技でも何でもなく、渉は切実に山岡へと訴えていた。
「こういう、感じでかい?」
 渉の内部で、山岡は指の関節を曲げてくる。内壁の硬い一点へと、そんな指先が強く食い込まされていく。
「ひぁぁっ!」
 痺れと鈍痛が組み合わさった様な強烈な感覚に、渉は背筋を仰け反らせた。
「ここ、弄られながらイクの、好きでしょ?」
 加虐的な笑みを浮かべながら、山岡はさらにその部分を刺激していく。
「やっ……あっ……んぁっ……あぁっ……!」
 山岡の指が動くたびに、渉は激しく身を震わせ、悲鳴にも似た喘ぎを発してしまう。もはや、ここが公共の施設であるという事すら関係なく、突き上がる様なすさまじい性感の波に、渉は理性すらも奪われ翻弄されていく。
 だがその時、予期せぬ形で渉は正気へと引き戻される。
 密室の空間に、唐突に鳴り響く軽快なメロディー。
 その瞬間、即座に山岡は渉の肛門から指を引き抜いた。そしてポケットから、その音の発信元である携帯を取り出す。
「もしもし」
 通話ボタンを押し、撮影中であるにも関わらず、山岡は電話に応じる。
 ここにきての突然の中断に、渉はすぐには状況を理解する事が出来なかった。
 だがそんな渉を残して、山岡は部屋の片隅へと離れてしまう。低い声で、電話の相手と何やら真剣な様子で話し込む。
 残された渉は、茫然自失のまま立ち尽くす。
 携帯を耳に当てながら、山岡の表情がどんどん険しくなっていく。
「そうか……分かった……ああ、こっちは大丈夫だから……また、後でかけ直すよ……」
 通話を終え、携帯をポケットへと戻しながら、山岡は大きく溜息を吐いた。
「あ、あの……」
「今岡君、すぐに服を着て」
「えっ……?」
「この近くを、パトカーが巡回してるらしい。申し訳ないけども、念のためここでの撮影は中止だ」
 山岡からの言葉に、呆気にとらわれていた渉も、一気に現実へと引き戻される。やはりこの近くに男の仲間がいて、撮影が安全に遂行出来るよう見張りをしていたのであろう。
 カメラの電源を停止させ、山岡は三脚を片付け始める。
 渉もまた、脱ぎ捨てた衣服へと慌てて手を伸ばす。
「先に出るよ。外の様子を見てくる」
 折り畳んだ三脚とカメラをバックの中へと戻し、山岡は素早く撤収の準備を完了させてしまう。安上がりな撮影とはいえ、その手際の良さには感心せざるを得ない。
 山岡は、トイレから出て行った。
 一人残された渉は、怒張したままのペニスを無理矢理に押さえ付けながら、何とか下着を穿き直す。溢れ出ていた先走りに、布地がじんわりと湿っていく。だが今はそんな事を気にしている余裕はなく、渉はズボンやシャツを着直して元の姿へと戻る。
 最後にバックを肩に掛け、渉もまたトイレから外へと出た。
 入り口の前に立っていた山岡が、渉を出迎える。
 幸い、周囲を見渡しても人の気配なかった。
「ごめんね、急な事になって」
 撮影中の冷酷な態度とは打って変わり、渉へと山岡が真摯に詫びてくる。
「中止って……これで、終わりですか……?」
「仕方ないね」
「………」
「一応、それなりの映像は撮れたし、何とか作品の体裁は取れると思うよ。今岡君も、頑張ってくれたからね」
「そうですか……」
「まぁ出来る事なら、どこか場所を変えて、撮影をもう少しだけ続けたいところなんだけど」
「………」
「もちろん、君の都合がよければだよ」
 山岡からの言葉に、渉の鼓動は再び高鳴りを増していく。
「君だって、こんな中途半端なまま終わるのは、かなり後味が悪いんじゃない?」
 渉の心を見透かす様に、山岡は言ってきた。そして視線は、そんな渉の股間へと向けられてくる。
 ズボンを穿いたとはいえ、その部分は露骨に布地を盛り上がらせていた。
 何も答えられないまま、渉は顔を伏せて黙り込む。
(結局……こいつには、逆らえないのか……)
 絶頂を目前にしながら、中断してしまった撮影。このまま山岡と別れる事を、欲求を募らせた身体が激しく拒絶してならない。今さら単なる自慰で、この苦痛にも似たもどかしさを解消させられる自信が、渉にはなかった。
(俺……何してんだよ……)
 だがその一方で、正気を取り戻した渉は、そんな己の無様な醜態に、耐え難い自己嫌悪を覚えてならない。大金の誘惑に目が眩み、カメラの前で快楽に溺れ、全てを終えて後悔する。そんな虚しい繰り返しが、山岡と出会ってから延々と続いていた。その事を十分に自覚していながら、今日もまた同じ過ちを犯そうとしている自分。
「条件が……あるんですけど……」
 渉は、決断せねばならなかった。
「ギャラの追加かい?」
「そうじゃありません……撮影を続ける代わりに、今日でもう最後にしてください……」
 山岡へと、明確な決別を渉は伝える。
 だがそんな渉に対し、特に山岡が戸惑うといった様子はなかった。いつかこんな日が来る事を、山岡も予期していたのであろう。
「君が嫌だというなら、もう依頼はしないよ」
「………」
「これが最後の撮影って事なら、OKしてくれるんだね?」
「はい……」
「約束するよ」
 あっさりと、山岡が言ってくる。
 山岡の言葉を、今は信じるしかない。だがそれでも、山岡からの言質を得て、渉の中で何かが少しだけ軽くなった気がした。
「その……場所を変えるって、どこで……?」
「いつもみたいに、続きの撮影はホテルでしようか」
「………」
「君だって、そこなら人目を気にしなくてもいいし、安心だろ?」
「分かりました……約束、守ってくれるなら……」
 渉は、山岡の求めに応じる。
「じゃあ、行こうか。近くの駐車場に、車停めてるから」
 山岡はそう言うと、公園の出口へと向かって歩き出す。
 外灯の明かりから外れ、闇に溶け込んでいく山岡の後ろ姿を、渉は茫然と見つめる。
(今日だけ……今日が最後だ……これが終わったら、もう二度と……)
 渉は、心の中でそう強く誓う。
 そして山岡を追って、渉は足を踏み出すのだった。


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