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水色の太陽 第4章 五


記事No.114  -  投稿者 : one  -  2009/08/26(水)02:40  -  [編集]


カーテンの奥で彰が動いたのに、三枝はすぐに気付いた。ベッドの近くまで移動して、カーテン越しに声をかける。
「起きた?あなた体育中に倒れたのよ。しっかり寝ないからね。」
「…そう…ですか…。全然覚えてないですけど…。」
彰もカーテン越しに返答する。 「もう大丈夫?あれだったらもう少し寝てなさい。」
「…そうします。」
「そういえばさっき朝日君と辻岡君が来たわよ。顔見て帰って行ったけど。」
「…! …武人と、タツが…?」
「えぇ。辻岡君がいつに無く無口だったけど、二人共心配してたわ。」
「…無口…ですか。…わかりました。それじゃもう少し寝ます。」
そう言って彰はごそごそとベッドに横になった。
「そうしなさい。」
三枝がそう言った時に授業終了のチャイムが鳴った。
彰はじっと天井を見つめていた。



屋上にもチャイムの音が聞こえていた。その頃には二人はすっかり泣き止んでいた。
「昼休みになったら…アキラの所、行こう。」
武人は言った。辰巳が赤い目で武人を見る。
「そん時には目覚ましてるかもしれないし。」
「つっても…。俺…。」
「どうしたらいいかとか、俺も何にもわかんないけど、このままでいるよりとりあえず何かしよう。アキラと、話してみようよ。」
武人の真っすぐな瞳に、辰巳はこくりと頷いた。

二人はとりあえず教室に戻った。クラスメイト達は二人が前の授業をサボった理由をなんとなく察しているようで、気を遣ったのかその事に関しては何も聞いて来なかった。説明するのも適当な嘘を付くのも武人は苦手だったので、それはかなり助かった。辰巳もそれは同じだった。
4時間目の数学の授業中、武人はぼ〜っと考え事をしていた。
彰が同性愛者であった事。それは確かに驚きだった。『同性愛』などというものは自分とは全く関係の無い社会問題だとばかり思っていた。それがこんな身近にあったのだ。実際困惑している。
しかし自分の中でとてもすっきり落ち着く物もあった。
自分の中にある進藤夕に対する感情の正体。その全貌が見えた気がする。
どんな問題もそうだが、『答え』を出すためにはそもそも『答え』を知っていなければならない。数学に於いては解答のプロセス。未享受の知識は解答にはなりえない。知識として知らないのだから。
元来ヘテロ・セクシャルの武人にとっては『同性愛』とは未知だった。そういうものがあるのは漠然と知っていても、自分のモノとして昇華するには知らな過ぎる領域。だから武人は気付かなかった。自分のこの思いが既に『尊敬』を逸脱してしまっていた事を。

「…朝日、ページが全然違うんだが?」

ふと我に帰ると目の前に先生が立っていた。数学の大隈。名前の通りデカイ図体をした先生だ。
「目を開けながら寝るとは器用な奴だ。」
大隈はそう言って身を乗り出してくる。タバコとコーヒーの混じったおかしな臭いだ。なんにせよこのむさい顔のアップは少しキツイ。教室では所々笑いが起こっていた。
「いや、ちょっと考え事してまして。アハハ…。」
武人は苦笑いを浮かべた。
「ふん。お前にしては珍しいな。」
大隈はそれだけ言うとまた教卓に戻って数式の解説を始めた。武人はその解説を無意味と分かりながらそこから写し始めた。
後ろを振り返ると、辰巳はまたあの体勢で前の席をじっと見ていた。

授業が終了すると武人は辰巳に目配せして保健室に向かった。なんだか緊張する。
一番近い階段で一階まで降りて、水道の取り付けられた廊下を突っ切るとあの廊下がある。そこを左に曲がるとすぐに保健室だ。
二人が保健室前の廊下まで来た時だった。

「うわーーー!!!ヤメロォ!!」

彰の声だった。二人は顔を見合わせてすぐに走りだした。
「アキラ!?」
保健室の戸を開けるとまず目に入ったのは腰を抜かしたような体勢で床にへたり込んでいる三枝だった。手には体温計を持っている。
そしてその目の前、三つあるベッドの真ん中のベッドの上で、彰は膝を抱えてガタガタ震えていた。そして、何かぶつぶつ言っている。
「…て…、…めて…。…あさんおねがい…。やめ…。…なさい。ごめんなさい…。」
それは明らかに異常。武人は彰のその状態に恐怖すら覚えた。
『こいつは…誰だ…?』
そこにうずくまる者は武人の知る何者でもない。よもや彰で有り得るとは到底思えなかった。
「先生何があったんだよ!?」
辰巳が叫んだ。
「わ、分からないわ。…私はただ体温を測ろうと思って…。」
三枝も何が起こったのか分かっていないようだった。
「体温!?そんな事でなんで…こんな…。」
三枝は立ち上がって、彰に向かって行った。
「霜野君…?大丈夫よ…。ほら…。ただの体温計よ…?ね?」
すると彰はまた叫んだ。
「うわーー!!! ヤメテ!!来ないで!…もう、やめて下さい!おねがいします…。痛い…痛いの…嫌だ…!…あさん、もう止めて…。止めてよ…。痛いよ…。」
彰は大粒の涙を流している。三枝はその惨事に立ち尽くすだけだった。
彰の大声に野次馬も集まり出した。保健室の入口に生徒や先生が集まっている。
辰巳はそれを見ると腹だたしそうに舌打ちをして「見せもんじゃねーんだよ!!!」と一喝すると足早に入口まで行くと思い切り戸を閉めた。あまり勢いが強かったので戸に嵌まったガラスに何本もひびが入った。その剣幕に誰も騒がなくなった。
辰巳がベッドの側に戻って来た時には、彰は武人に抱き抱えられた状態だった。

「アキラ、怖くないよ…。怖くない。俺達ここにいるから…。」
武人はそう言って彰の頭を撫でた。彰は依然震えている。
「かあさん…。ごめんなさい…。ごめんなさい…。」
「俺達がついてる…。心配すんな…。」
「ごめん…なさい…。」
「大丈夫…。大丈夫…。」
「…。」
彰はいつの間にか眠っていた。 武人はそっと彰を横にすると、布団をかけた。

「本当に体温を測ろうとしただけなのよ。」
三枝は白衣をはたくとそう言った。恐らく三枝の言う事に嘘は無い。武人も辰巳もそんなことは重々理解していた。
そんなことより彰のあの様子は一体なんだったのか。中学から彰のあんな状態など一度も見たことが無かった。二人はさらに意気消沈した。
「まるで何かに怯える子供みたいだった。さっき、『かあさん』って…。」
武人がそう言った時だった。
「アキラ!」
作業服を来た男性が勢いよく入って来た。あんまり勢いが強かったのでひびの入ったガラスは全部割れてしまった。…が、本人は見向きもしなかった。
武人と辰巳は二人揃って「あ、おじさん。」と言った。



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作者  one  さんのコメント
ちょっとだけ更新。

過去のお話もほとんど書いたんですがなんか中途半端になるので分割します。
彰の過去はもう少しお待ち下さい。
我ながら恐ろしい程にダークなお話になったので、次回は腹括って読んでください。
ていっても「たいしたことないね」って方も居ると思うのであんまり期待はし過ぎないでくださいね。

1、身長 2、体重 3、容貌 4、イメージカラー 5、部活 6、備考


<辻岡 辰巳>
1、178cm
2、73kg
3、明るい茶髪のショートミディアム 左耳にピアス やんちゃ系
4、ファイヤーレッド
5、サッカー部
6、武人の親友の一人。
馬鹿だと言っているが実際はそこまで馬鹿じゃない。勉強をしないだけ。やればかなり出来る。
四人兄弟の長男で下はいずれも小学生以下。そのため外見とは裏腹面倒見がとても良い。
リーダーシップがありサッカー部では実力的にも次期キャプテン候補と言われている。
お調子者気質。

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