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水色の太陽 第4章 六−上
記事No.115 - 投稿者 : one - 2009/08/26(水)23:02 - [編集]
「そうか…。武人君が彰を…。良かった…。」 男性は彰の父親の勝(まさる)だった。当然武人と辰巳は既に面識がある。仕事先に学校から彰の様子がおかしいという連絡が入り、飛んできたらしい。 保健室のソファーに座って事の一部始終を説明したら、勝はそう言った。 「つうことはやっぱりおじさんなんか知ってるんすか!?」 辰巳は身を乗り出した。 「落ち着いてくれ。私もこの発作の事は君達にも話すべきだと彰に言っていたんだ。しかしどうも本人が嫌がってな…。」 「どうしてっすか!」 武人も声を荒げる。 「気持ち悪がられて、仲間外れにされるのが怖い、と言っていた。」 「俺達が彰を仲間外れになんかするはず無いのに…。」 「私もそう言った。しかし彰は『言わないに超したことは無い』と言って聞かなかったんだ。」 「どうして俺達を信じてくれなかったんだよ!!」 辰巳は悔しそうに壁を殴った。傍らで聞いていた三枝が「やめなさい!怪我するわ。」と言って宥めた。 「君達の無念も分かる。しかし彰も苦しかったんだ。」 「どういう事っすか?」 武人は聞いた。 「あいつは、心から信じたものに裏切られる痛みを知っているから…。」 悲しげな声だった。まるで、自分もそれを経験したと言っているような、そんな悲痛の声だ。 「話してくれますよね?」 「もう知ってしまった君達に隠す事は出来ない。彰も諦めるだろう。」 そう言うと勝は立ち上がり、彰の側に行くとその頭をそっと撫でた。 「彰は、小学校高学年まで実の母親に…虐待を受けていた。…それは性的なものにまで及ぶ。愚かにも、私はそれに気付かなかった…。」 勝の言葉に一同は驚愕した。 勝は語り出した。 彰の母親、恵(めぐみ)は美しく聡明な女性だった。勝は彼女と大恋愛の末、第一子である彰を儲けた。 勝は工場で働いていたので、帰りは遅く、家の事は全て恵がやっていた。帰りが遅いとは言っても、土日はしっかり休みだし、お金の不自由もなかった。二人で相談して家を建て、彰が小学校に上がるまでは幸福そのものの家庭だった。彰はお母さんっ子で、いつも恵に付いて歩いていたという。 しかしその頃から、彰はよく怪我をするようになった。勝が家に帰ると、毎晩のように恵は「アキラちゃん、また転んだんですって…。」と言った。 三年になる頃にはいよいよ酷くなって、休みの日に話しても口数は少なく、暗い。怪我の事を聞いても「転んだ。」としか言わない。それでも生傷はどんどん増えた。勝はまずは学校を疑った。 担任の先生に恵と一緒に直訴しに行った。しかし担任には『教室ではいじめらしきものは一切確認出来ない。』ときっぱり言われた。勝は納得が行かなかった。 それからの一年はずっと学校と戦っていた。しかし一向に彰の怪我の原因は見定まらない。恵はよく彰を抱いて泣いていた。 しかし、それはただ勝が、恵の中に潜む魔性に気付いていないだけだった。 彰が五年生にもなると、恵に異常が現れ始めた。 まだ若かった勝と恵は、その時でも頻繁に身体を重ねていたが、どういう訳か突然性行為に応じなくなった。 インターネットのショッピングカートの中に、勝の身に覚えの全く無い怪しげな道具が入っていたり、お金を普段より多く要求するようになった。 家の中ではそんな怪しげな道具や宝石のような自分の意に反する物は何一つ見つけられなかったので、勝は自分の思い過ごしだと思っていた。 しかし無情にも、その日はやってきた。 平日のある日、勝は仕事が早く終わったので、恵に内緒で夕方頃に帰宅した。柄にも無くケーキなんかを買って、二人を驚かそうと思ったのだ。二人の喜ぶ顔が目に浮かぶ。勝の心は踊っていた。 しかし家の玄関の鍵を開けて、中に入った時に最初に耳に入ったのは、彰の悲鳴ともつかないうめき声だった。勝は手に持っていたケーキの箱を落とした。 勝は『アキラ!』と叫びたい衝動を抑えて、物音が立たないようにその声の元を辿った。 そこには驚くべきことに、勝の知らない内に作られた地下室があったのだ。…恐らく家を建てた当初、既に恵が手配していたのだろう。 勝は最愛の息子の呻きが木霊するその暗い階段を忍び足で降りて行った。 『嘘であってくれ…。』 そう願わずにはいられなかった。 そして、階下で繰り広げられるその光景に、勝は絶望した。 そこには、全裸の実の息子の手足を縛り、目隠しをし、猿轡をはめ、そのまだ小さな尻に可哀相な程大きなバイブを突き刺し、そしてその上に跨がり腰を振る恵の姿があった。 彰の身体には蝋燭による火傷跡や、鞭による傷痕が新しいものから古いものまで無数にあった。母親の動きに合わせてうめき声を上げている。 よく見ると暗いその地下室の壁には、何に使うのか分からないような恐ろしい道具が店のように並んでいる。 戦慄だった。勝はまさに今眼前で行われている事を理解出来なかった。いや、理解したくなかった。夢だと思いたかった。今まで我が子を蝕んで来た忌むべき者が、最愛の人だったなんて。 しかし、信じる以外に無かった。 「アキラ!!!」 勝は彰の上にいる魔女を背後から突き飛ばし、最愛の息子を解放した。涙でびしょ濡れの目隠しと、猿轡を外すと、彰は「ごめんなさい…。ごめんなさい…。」と延々謝り続けていた。 勝は変わり果てた我が子を力いっぱい抱きしめると、「ごめんな…、ごめんな…。気付くの、こんなに遅れて…、本当にごめんな…。」と言って涙を流した。 恵は何も言わず、床にへたりながら、ただそんな二人の様子を眺めていた。その頬を、一筋の水滴が流れ落ちて行った。 その後、恵は自ら警察に出頭し、忌まわしい家も引き払い、今は二人で小さなアパートに暮らしていた。 恵は自主する前に、勝に自分の事を話していた。 恵は天性のサディストで、しかも小児嗜好者だった。勝と結婚する以前から、自分の子供を拷問する事を夢見ていて、その為に勝と結婚し、彰を育てて来たのだと告白したのだった。 「そんな体験のせいで、彰は極度の女性恐怖症なんだ。普段なら理性である程度の発作は抑えられるが、今日のように弱った時に、あなたみたいに恵と背丈の似た女性が近づいてきたら、発作を起こしてもなんらおかしくない。彰は発作を起こすと当時に退行し、まるで今恵に乱暴されているような錯覚に陥る。」 武人達は彰の壮絶な生い立ちに涙を隠せなかった。辰巳はもはや号泣だ。兄弟の多い幸せな家庭に育った辰巳にとって、彰の身の上は刻過ぎたのだろう。 「発作が起こった時いつもはこの安定剤で落ち着けるんだが、武人君が治めてくれたんだったな。本当にありがとう…。私はもうあの子にこれ以上苦しんで欲しくはない。」 勝はズボンのポケットの中で拳を握りながらそう言った。 「恵が居なくなってからも、決して楽ではなかった。彰はまるで人形のように生気が無く、女性を見る度発作を起こしていた。」 COPYRIGHT © 2009-2024 one. ALL RIGHTS RESERVED.
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