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水色の太陽 第4章 六−下
記事No.116 - 投稿者 : one - 2009/08/26(水)23:24 - [編集]
昼休みはとっくに過ぎ、5時間目の授業も半刻が過ぎていたが、一同は時間も忘れて話を聞いていた。
「精神科に通いつめ、中学に上がるまでにはなんとか発作はある程度抑えられた。それでもずっと彰はふさぎ込んでいて、私が何をしても心を閉じたままだった。私は彰の為に何も出来なかったんだ。」 辛かった…。そう言って勝は頭を掻いた。 「だが、そんな時、彰に友達が出来た。…君達だ。武人君にタツ君。彰はみるみる明るくなっていった。家では君達の話ばかりさ。」 武人は、中学一年のとき意気投合した辰巳と一緒に、まだ学校に慣れていない風だった彰を仲間に引き込もうと努力したのを思い出した。 確かに今でこそ毒舌批評家で通っているが、当時はほんとに無口だった。 「君達には本当に感謝している。だから、これからもどうか彰の事をお願いしたい。あいつには、君達しかいないんだ。」 武人と辰巳は、勝の言葉に力強く頷いた。 「じゃあ私は仕事に戻るよ。」 勝はそう言ってそそくさと帰って行った。 「あなたたちも授業はどうするの?」 三枝がそう聞いて来たが、二人は彰のベッドサイドに椅子を持って行ってそこに座ると、「ここに居ます。」と言った。 三枝はそれを聞くと小さくため息をついた。 「今日だけよ。」 彰の寝顔は、未だ曇ったままだ。 * 武人はいつの間にか眠っていたらしい。肩を叩かれる感触に目が覚めた。窓から射す光は、赤みを帯びている。前を見ると、彰がいた。目の下の隈はすっかり消えていた。 「アキラ…。おはよう。」 武人はそう言って微笑んで見せた。 「こっちのセリフだよ。ばーか。」 彰はそう言って、武人の正面に視線を移した。そこには、俯せで寝息をたてる辰巳が居た。 彰はまだ恐れている。武人は直感で分かった。 「タツ〜。アキラ起きたぞ。」 武人はそう声をかけた。彰はびっくりしたような顔で武人を見る。武人はニカッと笑って見せた。 「んあ〜。おはよう…。」 彰は緊張した面持ちだったが、そう言って顔を上げた辰巳の顔を見ていきなり吹き出した。辰巳の顔は俯せで寝ていた為に目が腫れてとんでもなく不細工になっていた。 「っえ!?何??俺の顔なんか付いてる??」 彰が笑う理由がわからず、辰巳はうろたえる。 「アハハハ!元から酷い顔がさらにヒデーことになってんよ!」 彰は心の底から笑っていた。武人もそれを見て笑った。 三人はみんな無断で部活を休んで、昨日の公園に来た。最初辰巳は例のぶらんこジャンプをやっていて、武人も一緒にやっていた。彰はそれを見て野次を飛ばす。 ひとしきり遊ぶと、三人はベンチに腰掛けた。しばらくみんな無言で沈む夕日を眺めていたが、徐々に暗くなっていく風景の中、最初に口を開いたのは彰だった。 「安定剤が、置いてあった。父さん、来たんだろ?」 少し、声が震えている。辰巳と武人は「ああ。」と答えた。 「俺の話、聞いたんだよな…。」 二人はまた「ああ。」と答えた。 「…引いただろ?気持ちわりい…よな。俺、小5で童貞卒業してんだぜ。」 二人は小さくなって行く太陽をじっと見ていた。彰の声は、震えている。それと一緒に身体も小刻みに揺れている。 「…俺、昨日、タツにあんな事言っちまったし、…もう終わり…だよな。ホントに今まで…。」 彰がそう言おうとした時、辰巳がいきなり立ち上がった。ベンチの正面に設置されたランプまでずかずかと歩いて行くと、「あ〜あ!」と叫んだ。 「タツ…?」 彰は不安げにそう言った。 「…俺さぁ、考えたんだよ。馬鹿なりに。 ぶっちゃけ、俺お前の話聞いた時にワンワン泣いたよ。泣けて泣けて仕方なかった! だって俺なんて、お袋は殺しても死なないような奴で、親父は喧嘩しても未だに勝てないし、ガキみたいな弟二匹ととまだ赤ん坊の妹が居て、金持ちでもなんでもないけどめちゃめちゃ幸せな生活送って来たんだ。 違い過ぎだろ!理不尽過ぎんだろ!可哀相過ぎんだよ!! …だけど、それでも、俺ぁお前に同情なんかしねぇ。」 彰はじっと聞いていた。暗くてよく見えないが武人には泣いているように見えた。 「なんつってもこの世界一イケメンで幸せ王子の俺様が、お前に幸せ分けてた筈だからだ!」 そう言って辰巳はずんずんと歩いて来ると、彰の目の前に立って大声を出した。 「アキラ!お前、今は幸せだろ!!」 近くの木に止まっていた鳥達が一斉に飛び立った。その時、辺りは一気に静まり返った。 「お前の過去がどんなに悲惨だったか知らねぇ。母ちゃんに裏切られた事がどんなに悲しかったか知らねぇ。 でもそれはあくまで過去の話だ!終わった事だ! 今は違うだろ!?今のお前は、俺達と一緒で幸せな筈なんだ! お前の過去がなんであろうと、俺達の知ってるアキラはアキラで、そこに変わりは無ぇよ!! 絶対に俺達はお前を裏切ったりしねぇ!!」 彰は鳴咽を漏らしながら泣いていた。 「…いいのかよ…。っく…ホントに…。うぅ…。」 「当たり前だろ。お前は、俺達と一緒に居たくないのか…?」 彰はぶんぶんと首を振った。 「嫌だ!お前らと一緒に居たい!!ずっと、笑っていたいんだ!」 それを聞いて辰巳はニカッと笑う。 「…俺も一緒だ。武人も、な。」 そう言って辰巳は武人を見た。武人は満足気に笑って、「当然!」と言った。 帰り道、辰巳は暗がりの中言った。 「なぁアキラ、昨日の事だけどな、…答えはノーだ。」 彰は残念そうに辰巳を見た。 「俺はお前の事、そんな風には見れないし。」 辰巳の言葉に彰は俯いて、「そっか。」と言った。 「何より、恋人‘なんか’になっちまったら、友達でいれないだろーが。」 恋人なんか、武人はその言葉にはっとした。辰巳の中では、友達の方が上なんだな、と思った。彰も、それに気付いたらしい。ふっと笑うと、「あれ?お前あんなの本気にしてたの?馬鹿もここまで行くと冗談も通じないみたいだなぁ。」と悪態をついた。辰巳は「何ー!?」と言って怒りだす。 ああ、やっと戻って来た。俺達の幸せ。たった一日の事だったけど、凄く長く感じた一日だった。武人は顔がにやけるのを抑えられなかった。 そして、この時武人はある決心をしたのだった。 もうすっかり暗くなった空には、綺麗な三日月が浮かんでいた。 COPYRIGHT © 2009-2024 one. ALL RIGHTS RESERVED.
作者 one さんのコメント やっと終わった…。疲れました…。第4章がまさかここまで伸びるとは思っていなかったですね。 ここまでを前半にするつもりでしたが、長くなりすぎるのでこの後の話は申し訳ありませんがカットします。これで4章は終わります。 ただ、長くなった分大きなメッセージを託すことが出来ました。 このメッセージが、読んでくれた方にどうか伝わる事を願っています。 次からはいよいよ第5章。 物語も大詰めに差し掛かって来ました。 視点はまた彼に戻ります。 以下プロフィール <霜野 彰> 1、170cm 2、58kg 3、黒髪ショートカット 童顔ジャニ系 4、ブラック 5、バスケ部 6、武人の親友の一人。 武人や辰巳の制止役。酷評家で毒舌。 小学校時代の体験により極度の女性恐怖症。現在は辰巳に憧れているが天性のゲイではない。 頭が切れて冷静。勉強はかなり出来る。でもスポーツはバスケ以外苦手。 三人の中では一番モテる。 神経質で淋しがり屋。 <九条 香奈> 1、154cm 2、42kg 3、黒髪セミロング カワイイ系 4、チェリーピンク 5、陸上部 6、武人の幼なじみで彼女。 しっかり者で勤勉、活発な性格。勉強は学年でトップで陸上の成績も優秀。女子・男子陣からの支持も厚い。 カワイイものが好き。猫派。 陸上以外の趣味は少し古い少女漫画を読む事。最近のお気に入りは大嶋弓子作『綿の国星』。 |