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水色の太陽 第5章 一-下
記事No.119 - 投稿者 : one - 2009/09/06(日)22:39 - [編集]
しばらくすると選手も続々と起きて来た。みんな顔を洗いに洗面所に行く。夕は他の選手が終わる前に髪のブローを済ませた。 最近夕はこういう大きな試合の時は前髪が邪魔になるので小さなピンで右側半分を留めてしまう。以前ともよが試合の時に前髪をねじって留めていて、ぱっと見は簡単な編み込みのようにに見えてスタイリッシュだったので、自分でも試してみた。 意外に簡単に出来るのでそれから愛用している。 選手は朝食の前に朝練に行くことになっていた。 朝練とは言っても競技場の周りを歩いてから体操をするだけのごく軽いものだ。 身体が起ききっていない起床間もなくに無理な運動をすると、逆に身体の負担になると前に富田が言っていた。だから夕の所属する陸上部には普段朝練をする選手はいない。 その後朝食を食堂で摂って、準備を済ませたら昨日すでに陣取っておいた場所に各々向かう。夕達がいつも使うのは、バックストレートの棒高跳びピット付近、メインスタンドの裏側を通る通路の一番端と、サブトラックの木陰の三点だ。 一年や今日試合が無い二年は選手よりも早くそこに向かって、先にテントを立てておく。 * 朝一番の競技は4×100mリレー予選だ。メンバーである夕と信也と淳と前山は、全体とは別れてアップを行うことになっていた。競技が始まる前ならメイントラックを使用出来るので、四人はそこに向かう。 「今日暑いかなー。」 拠点となるバックストレートのテントに向かう折、露のかかった芝生を歩きながら信也がぼやく。 「蒸し暑いかも。薄雲だし。」 淳が返す。まだ朝方なので気温こそ高くないが、確かに蒸す感じがある。夕は湿気が嫌いだ。既に気分が重い。 「うへ〜、最悪。蒸した競技場とかサウナだし…。」 「お盆型だもんなぁ。熱篭るから…。」 そんな二人の会話を聞いているうちに、テントに着いた。ふと棒高跳びのピットを見ると理貴が数人の選手と一緒に高跳びのスタンドを組み立てている。理貴は棒高跳びの選手で、県ではトップだ。とはいえ、棒高跳びは競技人口が極端に少ないため、県外ではあまり良い順位ではないらしい。お人よしの彼は淳や信也によくいじられていた。 「バトンは?」 「金と銀。」 「だよね。」 淳が聞いて夕がそう答えるのは毎度の事だ。 ジョギング中夕は出来るだけ周りを見ないようにした。理由は、武人を見付けない為だ。 夕はやはり恐かった。 武人といるとなんだか平静を保てなくなるし、何より『あいつ』を呼び起こされる。それに、次出会った時に普通の顔でいられるかも疑問だ。 夕は自分を律して、ただじっと前山の声を待ち、そして押し付けられたバトンを、機械のように淳の掌に宛がった。 何も考えたくない。 今までみたいに、何も考えないように。 そうしてる内に流しまで終わり、「これより開会式を始めます。選手の方は、本部席前に集まって下さい。」というアナウンスが入ったので、切り上げてサブトラックに移動した。リレーメンバーはバトンを合わせなければならないので開会式には出ない。 サブトラックでは既に数チームがバトン合わせをしていた。夕達も荷物をサブトラックのテントに置いて、軽い格好になるとすぐに始めた。最初は前山とだ。 夕達のメンバーは速い者から順に並べると、夕、前山、淳、信也、となる。実はリレーの走距離は、リードの関係で一、三走が短く、二、四走が長くなる傾向がある。その為一般的には速い者は二走と四走に入るのが普通だ。それでも前山を一走に置く理由は、彼の加速力に由来する部分がある。 とは言っても恐らく、ベストの走順は距離の短い一、三走に淳か信也を、長い二、四走に夕と前山を入れた時だろうが、この走順は慣れた走順を大幅に変える必要があったので避けたのだった。 「やっぱり追いつけません…。先輩今日なんかいつもより速いですよ。」 夕達は二回程合わせてみたが、どうもうまくいかなかった。夕の調子が良すぎて今までの距離では前山を置いていってしまうのだ。 「仕方ないな…。二足短くするわ。」 夕は今までの調子から考えてそう言った。リードの距離は自分の足の長さで測るのが普通だ。 「わかりました。」 前山はそう言うと自分のスタンバイ地点に戻って行った。 夕は自分の目印のテープの位置を調整しながら、ちらっと淳と信也のペアの様子を見たが、あっちもあまりうまくいっていないようだ。 少し焦って来た。 夕がスタンバイしていると、前山からOKのサインが出たので、夕も手を挙げてサインを返した。しばらくすると前山が手を挙げながら「3レーン行きます!」と大声を上げるのでそれに「ハイ!」と返事をする。 夕はスタンディングの姿勢で、上半身の力を抜く。脇の間から前山の様子を確認する。今、スタートした。前山が目印に到達するまでじっと堪え、目印を越える一寸先に自分も後ろ足で地面を蹴る。そして加速。 結局前山の声は聞こえなかった。 「スイマセン…。」 息を切らしながら前山はそう謝る。辛いのは毎回50メートル程走る前山だ。これ以上走らせると試合に響くのは目に見えている。 「とりあえずお前もう休め。予選は適当に合わせるから。」 「はい…。」 そう言っている時に調整が終わった淳が来た。 「うまくいかない?」 「ん〜、どうも今日俺が走れ過ぎてて。淳も三足程伸ばしてくれ。」 「わかった。」 そう言うと淳は三走のスタートまで走って行った。 「じゃあ俺、テント戻ってます。」 前山もそう言うと帰って行った。 『追い付かないのはまずいな…。詰まるんならなんとでもなるんだけど…。』 そんな事を考えている時だった。 「あっれ〜?先輩このスパイクいつの間に買ったんすか?むちゃくちゃかっくいーっすね!」 とりあえず驚いた。まったく警戒していないところにそいつは現れた。いつの間にか足元にしゃがみ込んでいる。 「お、お前…。」 「ちわっ!お久しぶりです。つっても二週間も経ってないっすけどね〜。」 武人はそう言って笑った。また、子供みたいに。 COPYRIGHT © 2009-2024 one. ALL RIGHTS RESERVED.
作者 one さんのコメント また忙しくなってしまったんですが、出来るだけ土日には更新出来るようにしたいです。頑張ります。始まりました第5章。夕視点。 なんと言ってもやっぱりこいつは暗いっすね。根暗です。 プラス今回は全く面白みのかけらもない話でどうしようもないことになってます。しかも試合だから前とあんまり変わらないという。 なんとなく以前大詰めとか言ってみましたけど、終わるのはホントにまだまだなんですよ。 ただちょっと話が動くような…。ってそんな気がしただけです。 ここだけの話、実はまだまだ前座の域は出ていません。 <前山 弘紀> 1、172cm 2、65kg 3、黒髪ベリーショート これといった特徴がないのが特徴 4、アイヴォリー 5、陸上部 6、夕の直属の後輩。 一年時はパッとしない選手だったが夕の指導により開花。現在二年で100mはトップ。でもカリスマ性が皆無なので弱く見られがち。本人も悩んでいる。 趣味はテレビゲーム。 |