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水色の太陽 第1章『暗黒に射す採光』 ニ


記事No.61  -  投稿者 : one  -  2009/04/12(日)18:21  -  [編集]

 今世間一般では春休みと言われる時期にきている。とは言っても部活はほとんど休み無く毎日あるので、部活動に勤しむ中高生にとって十日足らずの休みなど、無いに均しい。 夕の所属する陸上部も例外ではなかった。
しかし夕にとって、学校でのトモダチとの会話ほど不毛に感じるものも無いので、それがある程度廃除されている期間は中々都合の良いものだった。
その春休みの中頃、夕の高校では毎年他校の選手、顧問を招いて『合同練習会』というものを行っている。 目的は選手同士の交流や他校の指導者による技術の伝播など、様々だ。
夕はこれに参加するのは二度目になる。一年時にも参加は出来たらしいが、ただ面倒だったので行かなかった。

とにかく、そんなイベントが一週間後に迫っていた。

夕焼けに辺り一面が真っ赤にそまる。普段は意地汚く聞こえる烏の鳴き声も、この時間帯には風流を感じさせる。カァ、カァという声が、まるで終わってしまった一日を惜しむかのような色彩を載せ、万物に哀愁を漂わす。
「またベスト出したんだって?やるよな〜。」
家路の途中、自転車を漕ぎながら呆けた声でそう言ったのは走り幅跳びの信哉だった。記録は上位に入るが、飛び抜けて優秀な選手というわけでもない。そういえば苗字はなんだっけ、と夕は少し首を傾げるが、どうでもよくなって「ハハ」と渇いた笑いだけ返した。
「俺も夕くらい短距離早かったら、もっと遠くまで跳べるんだろうな〜。そしたら夕みたいにモテるかな?」
何故か上機嫌の信哉はそのまま話を続ける。
「知ってるか〜?大会で夕が走る時になると会場のほとんどの女子が見てるんだぜ。んで自分の学校の選手より夕の応援してる不届きな奴もいるんだ。羨ましいよな〜。」
 大袈裟な身振りでそんなことを言ってる。「だから俺も会場全部を注目させるような大ジャンプしたら、行けそうじゃね〜?」そう続けた。行けるって、何処に行きたいんだとツッコミたい気分になる。
「ばーか。そんだけでモテるかって。様は顔と性格だよ。俺にはあるけど、お前には無い。だから無理!」
笑い混じりにそう返してやる。すると自転車のスピードを落として「あー、感じ悪いぞ〜」なんて後ろの方でぼやいている。
「置いてくぞー。」
言って速度を上げる。真っ赤な太陽に向かって。 「まてよ〜。」と信哉が後ろから付いてくる。

全ては、茶番。夕はそう思っていた。トモダチと笑い合うのも、冗談を言い合うのも。全てが夕の心を乾かし、かえって孤独感を煽る。何も無い、この世はシロクロだ、とそう思っていた。

 彼と出会うまで。

−−−−−−−−−−−

合同練習会当日は綺麗に晴れた。まさに小春日和と呼ぶに相応しい様相だった。 平凡なサイズの競技場に、非凡な数の人が集まる。参加校は周辺の十校程だが、中々の賑わいを見せていた。
夕は顧問から短距離ブロックを取り仕切るように言われていた。 元々キャプテンではなかったが、人をまとめるのは得意だったので、その任務は例え相手が一番人数の多いブロックでも、さして難しいことではなかった。夕の一挙一動に毎度女子の黄色い声があがるのは、聞こえない振りをしてやり過ごした。
そのブロックの指揮に追われる中、何となく夕の気を引く奴がいた。それが彼のスポーツマン然とした体躯のせいか、憎めない顔立ちのせいか、夕にはよく分からなかった。ただ、ドリルをこなす最中でも、彼とはなぜかよく目が合った。
それが、夕が彼を初めて意識した瞬間だった。


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作者  one  さんのコメント
最初はつまらないっすね…。
どうかお付き合い下さい。

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