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水色の太陽 第5章 三−A


記事No.128  -  投稿者 : one  -  2009/10/06(火)02:14  -  [編集]
夕は始め前山が何を言っているのか分からなかった。しかしすぐに理解し、理解した時に、嬉しさとも焦りともとれないよく分からない感情が圧し上がって来た。
確かに、武人の学校はここの近くだ。武人の地元は聞いたことは無かったが、この周辺ということは十分考えられる。しかしこの日に限ってわざわざ銭湯に来ようとは、到底偶然の沙汰とは思えない。
「朝日?…ふ〜ん。」
夕はわざといかにも興味なさ気な返事をした。
胸がざわつく。あいつは自分の存在に気付いているのだろうか。今サウナに向かえば、裸のあいつに会えるのだろうか…。
想像しそうになって夕はその白く濁った湯を顔にパシャッとかけた。垂れて来た前髪を掻き上げる。
「会いに行かないんですか?」
前山がキョトンとした顔で尋ねてきた。夕はその言葉に少し戦いたが、平静を装って前山を見た。
「なんで?」
それが睨んだように見えたのか、前山はいつものように大袈裟に反応してみせる。
「いや!…なんか、先輩仲良さそうだったんで…、なんとなく…。」
仲が良い?俺と武人が?
「そう見えるのか?」
夕は声のトーンを落とした。
「えっ、あの、えっとぉ…見えると言えば…見え、ます…。」
前山は見るも無惨な程にきょどっている。高島は横でその様子にくすくす笑っていた。
「きょどんな、うぜえ。」
夕はそう吐き捨てて立ち上がった。すぐにタオルを腰に巻く。
「えーっ、スイマセン!…ってか、何処行くんですか?」
「サウナ行けっつったの誰だよ。」
夕はそう言ってまた前山を睨み付けた。前山は青い顔をして「…スイマセン…。」と言って湯に顔を半分沈めた。

三つあるサウナを最初窓から一つ一つ中を確認してみたが、窓が小さすぎたり蒸気が酷かったりでよく分からなかったので、まず「塩サウナ」と書かれた木造の扉を開けて、むしっとした熱気で充満したその小さな部屋の中に入った。中には10人弱の人が居て、何人か後輩や同級生が居たが、あいつの姿は無い。夕はすぐに部屋を出た。そして、次に「スチームサウナ」と標識の掛かったガラス製の扉を開けた。
中は蒸気で何も分からない。数人の人影が見えるだけだ。むあっとしていて息をするのも辛かった。

とりあえず夕はそこのタオル敷きの木造の椅子に座った。汗がじわじわと出る。
しばらくそうしていると、一人、また一人と人が外に出て行った。夕は腿に肘を立てて頭を手で支えた体勢でじっと下を見ていた。汗が鼻のてっぺんからポタポタと垂れるのが見える。そろそろ出ようか。そう思った時だった。誰かがドカッと夕の隣に腰掛けた。
「ふ〜、暑い。ってか、二人っきりっすね。」
そいつはそう言った。
ゆっくり顔を上げると、あいつが居た。いつにもない大人びた表情で、じっと前を見ていた。
「よ、よぉ。武人。前山がお前が来てるって言ってた。」
平静を装う。内心は、何だか暖かいような、むず痒いような、そんな気持ちだったが。
その時は回りには誰もおらず、確かに二人きりだった。武人は両手を後ろに付き、身体を投げ出すような体勢で座っていた。しかも、タオルは首にかけていて、下半身は全く隠す様子が無い。スチームがあるとは言え、ま隣に座られれば鮮明に見えてしまう。茎は長く垂れ下がり、完全に剥けた亀頭の先は今にも椅子に触れそうだ。デカイ。めちゃくちゃ、デカイ。夕の額を嫌な汗が流れる。
「先輩。」
武人が口を開いた。少しトーンが低い。
「なんだよ。」
夕がそう言うと、武人は少し考える素振りを見せた。「ん〜。」と唸っている。
「何?」
少し強めに催促した。
しかし武人は「いや、やっぱいいっす。」と言ってそっぽを向いてしまった。夕は少しいらついた。
「よくねぇよ。気になるから言え。」
「え〜、ハズイっす。」
そう言うと武人は椅子に仰向けに寝転びだした。脚をこっちに向けているのでもはやまる見えと言った状況だ。流石にその光景には夕の下半も首を擡げ始めた。これはマズイ。夕はまた前を見る。
「ハズイ事なのかよ。ってか、お前少しは隠せ!きたねぇんだよ!」
「えー?汚いって酷いっすねぇ。自慢の息子なのに。」
武人は頭の後ろで手を組んで、天井を見ている。恐らく真っ白な光景が広がるだけだろう。
「なんの話だよ…。」
夕は呆れ気味にそう言った。



しばしの沈黙、そして、やっと武人は口を開いた。

「あの人、誰っすか?」

唐突過ぎて全く意味が分からない。
「あの人?どの人だよ。」
夕は怪訝な表情で武人の方を見た。しかしそこには武人の巨大なあれがあって、夕はまたすぐに視線を戻す。
「あの人っすよ…。今日先輩の後ろに座ってた…。さっきも隣でシャワー浴びてたじゃないっすか。」
そういえばすっかり忘れていた。武人はあれを目撃していた。…やっぱり何かしら思う事があったらしい。というか、シャワーの時も見ていたのか。
「あ?寺山さん?あの人は俺の二個上の先輩だよ。先々代のキャプテン。」
「仲良いんすか?」
武人が何故こんな事を聞いてくるのか分からない。これではまるで…。
「良いっていうか、普通だよ。よく世話になってるけど。…んで、それがどうしたんだ?」
「…」
武人はいきなり押し黙った。
「おい。」
「俺、あの人嫌いです。」
天井を見つめながら、武人はつぶやく。
「はぁ?いや、寺山さんは悪い人じゃねぇぞ?」
夕は少し憤慨した。少し下心は見えるが、信頼している先輩だ。尊敬もしている。
「理由なんか無いっす。ただ、なんか嫌なんですよ。先輩もあの人には注意した方が良いっすよ。」
武人はそう言うと起き上がった。
「俺、そろそろ上がります。脱水症状起こしちゃいそうです。」
「待てよ、どういう事だよ。寺山さんの事なんも知らねぇくせに、なんでんなこと言えんだよ。」
夕は立ち上がりながら出ていこうとする武人の腕を掴んだ。汗でしっとりと濡れている。武人は驚いた様子だった。
「いや、ホントに直感です!何とな〜くそう思っただけで。ただの戯れ事だと思って聞き流しといて下さい。」
そう言ってにししと笑う。夕は釈然としないまま武人の手首を離した。
「気分損ねたんならスイマセン。でも、俺、思ったことは言う事にしてるんで…。」
「うぜえ。」
夕は少し俯いてそう言った。
「じゃ、俺、先に出てますね。」
武人はそう言うとガラスの扉を開けて出て行った。形の良い尻が左右に揺れていた。

夕はしばらくの間、先程武人に言われた言葉を反芻すると、少し目眩を感じたので出る事にした。少々長居し過ぎたようだ。


銭湯を出る時、ロビーでジャージ姿の武人が待っていて、コーヒー牛乳の便を片手に夕のところにやってきた。
「先輩、明日はまた頑張りましょうね!俺絶対100m決勝出ますから!そんじゃ!」
それだけ言って踵を返した。しかし、数歩歩くとまた振り返り、「先輩のチンコ、かわいっすね!」とか言う爆弾を残して行った。回りには恭介やたくさんの部員が居たので、大いに笑われて酷く恥ずかしかった。
「俺のは普通だ!お前のがデカすぎんだ馬鹿野郎!!」
夕は顔を真っ赤にしてそう叫んだが、逆にもっと笑われたということは、言うまでもない。

それにしても、いつの間に見られていたのだろう。夕はその夜、そればかり考えていた。


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作者  one  さんのコメント
どうもこんばんは。
更新がまたもや遅れまして申し訳ありません。。

前回貴重な意見を下さった建さん、ありがとうございました。
真摯に受け止めます。

ただ、現在のストーリーの展開上、話が『不完全燃焼』と思われるのは仕方の無い事だと思っています。

これは作者が故意に話を曖昧にしているからです。

現在段階的に話の所々に伏線を張っている状況でして、まだその伏線は野放し状態で置いてあります。

ストーリーが展開していくに連れてそれらも少しずつ回収していく予定です。

しかるべき時が来たら、全てのエピソードが一つに繋がっている事にお気づき頂けることと思っていますので、今暫くお付き合い下さい。

しかし展開が緩いというのは痛い意見です…。
なんか書いてますと細かい所にも気が入ってしまい中々話が進まないのです。
う〜ん。困った。

このまま行くと第5章も六話で終わらないし…。。

それから官能表現に関しても、俺はあまり頻発したくないんですよね。
普段からそういうものを多くすると、ここぞというときに効果を無くす事になりますし…。

まぁそういう事です。


tktさんもいつもコメントありがとうございます!
ホントにうれしいのです。

それではまた。