新規投稿 一覧表示 評価順表示 過去ログ

俺がアイツでアイツが俺で 一話「俺のアキラ」


記事No.154  -  投稿者 : telecastic  -  2011/03/31(木)07:20  -  [編集]
 それはある夏の日の事。俺はいつもたむろしている公園でぼーっとしながらジュースを飲んでいた。
 眩しい太陽がじわじわと皮膚から汗を出させる。蒸し暑い空気が重いヴェールを宙に浮かべて、俺の顔面をもわっと包み込んでいた。
「うー、くそ、アキラの奴。いくらなんでも遅すぎだろ」
 俺は耐えかねて、足元の土くれを睨みつけてそうぼやいた。
 アキラとはもう、三年以上の付き合いになる。中学一年の時に知り合って、毎日のように遊んで、いろんなことを喋った。
 俺はハッキリ分かった。これは一目惚れだって。……向こうは、分かっているんだか、いないんだか、微妙なとこだけど。
 とにかく、俺とアキラはよく一緒にいるし、よく遊ぶ。……だから、こんな風に待たされたってちっとも苦じゃない。……はずなんだけど。
「悪い悪い。遅れた?」
 笑顔で手を挙げながらそう言うアキラに、俺はむくれながら答えた。
「三分遅刻。さいってーだな」
「え、いや待てよ三分だろ? プラマイ五分は遅刻じゃないだろ」
「この暑さで三分は地獄なの。俺の水分が余計に蒸発したし。ポカリ一本な」
「おいおい」
 そう言って苦笑いを浮かべるアキラは最高に格好いい。サッカーをやってて日ごろ鍛えてるアキラは、この程度の暑さはなんともないのか特に気にしてないようだ。
 薄着のシャツから見える逞しい腕がまぶしい。俺は思わずゴクリと唾を飲んだ。いや、毎日見てるけど。
「な、なあアキラ。あっちの神社に行ってみないか?」
「神社? なんでまた……今日はゲーセン行くんだろ?」
「そうだけどさ。ちょっと涼しいとこ行きたいじゃん」
「……ゲーセンの方が涼しいと思うんだけど……」
 正論だ。俺は一瞬押し黙りかけたが、ここで負けては「俺の目的」が果たせない。もう一度口を開いた。
「きょ、今日ばあちゃんから聞いたんだけどさ。ご利益あるらしいんだってあそこ。たまにはこういうのも悪くないだろ? な、行こうぜ」
「あ、おい。……ったく、ゲーセンと反対側じゃんかあそこの神社。それに何のご利益があるんだよ」
「……恋愛成就」
 別に、真に受けてるわけじゃない。でも、俺はアキラとの恋愛は、それはそれは神様にでも頼みたい程、真剣に考えてるんだ。
 くすんだ赤黒い色の鳥居を抜けて、プラスチックかと見紛うような賽銭箱に五円玉を投げ込む。隣ではアキラも渋々五円を投げ込んで、手を二回叩いた。
(アキラと結婚できますようにアキラと結婚できますようにアキラと結婚できますように!)
 三回願いを言うのは流れ星を発見した時だっけ……。まあいい、願うにこした事はない。とにかく俺はそう必死で願って、隣のアキラを見た。
「……何。願った?」
「え、なんだろ。いいお嫁さんができますようにーとか?」
 アキラはそんな呑気な事を言っている。人の気もしらないで……まぁいい、とにかく一緒についてきてくれたんだし、そんで一緒に願い事したんだし。
 ばあちゃんの話ではこの神社に訪れたカップルは永遠に結ばれるらしいからな!
 ……俺達、カップルなのか怪しいけど。
「ま、とにかくゲーセン行くか」
 俺はそう言って、アキラと一緒に鳥居をくぐる。その時。俺は地面にある大きな石に思い切りつまづいて、地面に倒れこんだ。
 その瞬間、アキラは俺の体を支えようと胸に手を回す。
 俺もアキラの肩を手でつかむが、アキラはそれで重心を崩して、二人して地面に転がってしまった。

「……あー、いててて。大丈夫か、コウ?」
 頭をかきながら、俺が立ち上がる。
「……うん、いってー。ごめんな、アキラ……へ?」
 アキラはキョトンとした顔でこちらを見た。
「お、俺……? 俺がいる……」
 俺は自分の体を触りながら、目の前で驚いた顔をしているアキラを見つめた。
「お、俺達……入れ替わっちまったのか? これ、俺の体だよな……」
 俺はそう言って、アキラの太ももに思い切り吸い付く。
 そこへ盛大な脳天唐竹割りが入った。
「はいカーーーーット! おい! 冴葉! どさくさに紛れて村井の太ももに吸い付くなこのゲイが! それとな、昭昭ってさっきから村井の名前を呼んでるが、村井は今『俊彦』って役なんだよ! 村井も冴葉の名前を呼んでるんじゃねえ!」
 今俺に丸めた台本で美しい脳天唐竹割を披露しながら怒鳴っているこの先輩は、本荘 醍醐(ほんじょう だいご)先輩だ。
 何かと厳しい人で、俺が演劇部に入ってからというもの毎日のように怒鳴られている。
「いやー、すんません。こいつが俺のこと名前で呼ぶから、つい……ははっ」
 アキラは頭に手を当ててニッコリ笑う。さっさと起き上がると、俺に手を出して「ほら」と声をかけてくれた。カッコいい。
「大体、途中から展開が違うだろ。いいか、このシーンはな、冴葉演じる『秀樹』が、自分の思い人と付き合ってる『俊彦』を誘い出して恋愛神社に行き、深い愛憎を表現した後に体が入れ替わってしまうっていうシーンなんだよ。それをなんだ、『いいお嫁さんができますようにー』って。なんで他人事なんだよ!」
「あ、す、すんません。なんか、コイツと喋ってるとつい地になっちゃって……やっぱ俺には演技なんか無理なんすかねー」
 醍醐先輩は悪びれず頭をへこへこ下げるアキラをみてため息をついた。
「……そうかもな。やっぱ役変えるか」
「あーっ! ダメダメダメーーっ! 絶対、絶対アキラじゃないとダメ!」
「やかましい!」
 またも醍醐先輩は俺の額に凄まじい一撃をくらわす。
「……大体な、演劇部入ったばかりの二年のお前が、三年の先輩をさしおいて主役だなんて恐れ多いぞ。村井なんて本命はサッカー部だろ。それをお前が村井に対する欲望を満たそうとかけもちなんてさせるからだな、村井もお前に付き合わされて変な苦労をかけられてだな」
「先輩、俺は平気っすよ」
 アキラはそう言って微笑む。……アキラ、やっぱり俺のこと……
「村井、お前もなあ、もうちょっとこいつに厳しくしたらどうだ。大体俺は反対だったんだよ、冴葉なんて演技のえの字も知らないような奴をいきなり入部させて主役にしろだなんて……」
「まあまあ。俺はいいんすよ、それに、これ生徒会長からの命令なんでしょ。だったら従わないと、ね?」
「アキラ……俺、がんばるよ。大好きなアキラと一緒に本番、舞台に立てるように!」
「おう! 一緒に頑張ろうな!」
 そう言って肩を叩き合う俺達に、醍醐先輩は完全に呆れた顔をしていた。
「……なあアキラ、俺のこと好き?」
「ん? うん。別に、演劇部も嫌いじゃないし、ちゃんと最後まで付き合うよ。なんたってお前は、俺の大事な弟みたいなもんだからな」
 そのアキラの発言に、醍醐先輩だけでなく俺までも呆れ顔になった。
 俺が意を決してアキラに告白したのが中三の卒業式。卒業して別の高校になる、つまりお別れになると思った俺は全てを投げ捨ててでも告白した。
 それをアキラが「うん」と頷いて、俺達は幸せなカップルになれるはずだった。
 でもアキラのうんっていうのは、俺を大事な弟として好きだっていう「うん」らしく、つまり、俺がアキラに告白したのもそういう「好き」って事だと勘違いしているらしい。
 その最強鈍感っぷりに演劇部の先輩達も呆れかえっていた。
「……とにかく、『俺がアイツでアイツが俺で』、本番まで後三ヶ月だ。なんとかそれまでに形にすんぞ!」
 醍醐先輩がそう言って俺達に渇を入れる。俺もそれに応じて、思い切り声を出した。
 そう。俺はこの三ヶ月で、アキラを振り向かせて見せる! その為に興味もない演劇部に入ったのだから……!
 誰にも見えないように強く握った拳に誓って、俺は台本を高らかに読み上げた。

COPYRIGHT © 2011-2024 telecastic. ALL RIGHTS RESERVED.

作者  telecastic  さんのコメント
あけましておめでとう!!!!!!!!ありがとう!!!!!!!!!
パソコンぶっ壊れてぼいんぼいんしてたら気がつけばこんなに時間が…精神と時の部屋の所為や…!
ところで私が超級覇王電影弾習得の為に修行している間にただそれが帰らぬ人になったみたいですね
私も竜二編まではサルベージできたんですが武編はアイルビーバックとかほざいてマグマの底に沈んでしまいました。
なのでもう秦汰編で終わっときます まぁあれでも一応綺麗に終わってるんじゃないでしょうか伏線回収してないけどv
読みたい方がいらっしゃいましたらコメントくだされば、次投稿する時に私の小説サイトのURL載せておきます それでは皆さんまたよろしゅう