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枕営業
記事No.178 - 投稿者 : アロエ - 2012/09/07(金)16:12 - [編集]
「君の選択を聞かせてもらおうか?」
テーブルを挟んで向き合う二つのソファー。その一方に深々と腰を下ろすスーツ姿の中年の男性が、正面に座る相手へと静かに言ってきた。 男の視線と言葉を前に、青年はその返答を迫られる。若く端正なその容貌は今や極度の緊張に強張り、額からは脂汗が滲み出ていた。 平日の昼下がり、大手企業のT社応接室は不気味な重苦しさを室内に漂わせていく。 「今日まで、考える時間はじっくり与えたつもりだよ?まさか、まだ結論を出せないとでも言う訳じゃないだろうね?」 なかなか口を開こうとしない青年に対し、男はさらに問いを投げ掛ける。 「い、いえ……そんな訳では……ただ……」 「何だい?」 「………」 「口約束では、不安かな?」 「その……」 ソファーの傍らに置いていたカバンから、青年は書類を取り出した。そして前に置かれたテーブルの上へと、どこか申し訳なさそうな様子で慎重に提示する。 書類を見下ろしながら、男は苦笑してきた。 「君もちゃっかりしているな。いきなり私に見返りを求めてくるとは」 「………」 「で、今ここで私がこの商談に頷いたなら、どうするんだい?」 男からの問いに、いよいよ青年は答えねばならなかった。今ここで男から書類へと判をもらえるならば、それこそ胸を張って自分の会社へと戻る事が出来る。ある意味これは、目の前にいる男とのこれからの関係についてその是非を計る重大な試金石でもあった。 そして今、男は青年に対しその見返りを示してきたのである。 「部長の……望まれる通りに、させてもらいます……」 上擦った声を必死になって振り絞り、青年は男に対して答えを返した。 フッと、男の口元がわずかにほころぶ。 「必ず、君ならそう答えてくれると思っていたよ」 「あの……それで……」 「分かってるさ、君の献身には十分応えさせてもらうつもりだよ」 「………」 F社に勤務する川村健一は、取引先からの良好な反応を得ながらも複雑な面持ちで黙り込む。己が選んでしまった恐るべき代償を前に、今はとても喜びを感じる事など出来ないでいた。 「安心しなさい、君の不利益になるような真似はしない。私だって、君の将来は出来る限り応援するつもりなんだから」 健一の不安を察した様に、男は言ってきた。 「はい……」 己の運命を、目の前の男へと完全に委ねさせられる気分だった。しかしもう、健一に後悔や迷いなどを抱く事は許されない。 「とりあえず、今回君が持って来たこの案件については、こっちで前向きに進めさせてもらうよ」 男は上機嫌に話を続ける。 「君も、今日は会社にいい土産を持ち帰る事が出来そうだねぇ。輝かしいこれからの将来を、私も期待するよ」 「全て、部長のお陰です……」 「いいや、まだ感謝は早いよ」 健一へと、すかさず男は釘を刺す様に言ってきた。 鋭く光る男の眼光を前に、健一は恐怖に似た感情を覚えて一気に全身が鳥肌立つ。 「分かってると思うが、この話が上手く進むかどうかは君しだいだ」 「全力を……尽くすつもりです……」 男を正視出来ぬまま、健一は何とかそう答えるのが精一杯だった。 F社にとって長年の取引先であるT社。そしてここの事業部長であり、表向き商談という名目で今こうして健一と対面している須藤という名の男。二十五歳の未だ若造ともいうべき健一にとって、経営規模も資本力もF社を陵駕するここの幹部は、決して逆らう事など許されない相手であった。 しかし健一にとって、今や須藤はそういった表面的な関係以上に絶対的な存在になろうとしている。 なぜ自分がこんな目に遭わねばならないのか、健一は己の不運さを呪わずにいられない。だが親子程の歳の差があり、なおかつ立場も雲泥の差があるこの須藤から気に入られたという事は、取引先の相手として決して健一に不利益なものではなかった。例えそのために求められる須藤への『接待』が、どれ程に理不尽なものであろうとも。 「そうか、なら君のその誠意と熱意、本物かどうかをまずは確かめさせてもらおうか」 やがて須藤は、意味ありげに健一へと言ってきた。 「確かめる……?」 「私もね、君からの『接待』は楽しみにしてるつもりだ。しかしだね、今の君を見ていると、本当に私を満足させられる『もて成し』が出来るのかどうか、少し疑問に思えてならないんだよ」 「そ、それは……」 心の内を見透かされているかの様で、健一は戸惑いを露わにさせてしまう。 「だからこそ今、君の覚悟の程を見せてもらいたいんだ」 「覚悟はもう決まっています……ですから、今日ここに……」 「なるほど。ではその覚悟というものを、行動で示してもらおうか」 「その、どうしろと……」 健一の胸は、苦しいまでに鼓動を高鳴らせていく。 そんな健一を眺めつつ、須藤の表情にかすかな笑みが浮かぶ。 「まずは、今すぐここで服を脱ぎなさい」 淡々とした口調で、須藤は健一へと命じてきた。 「なっ……!」 耳を疑いたくなる須藤の言葉に、健一は愕然とさせられる。 「何をそんなに驚く?裸のひとつも見せられないで、どうやって私をこれから満足させようと思ってたんだい?」 「し、しかし……」 「私の命令に、従えないとでも?」 「そんなつもりは……」 「じゃあなぜ。言われたらすぐに行動しようとしないんだ?」 穏やかな言い方ながら、須藤は確実に健一を追い詰めていく。特に大きな感情の抑揚もなく、まるで当然のごとく健一へと命じてくるその落ち着いた様子が、むしろこの男の中に秘められていた冷酷さを生々しく剥き出しにさせていた。 「こんな所で……その……」 須藤に対して覚悟を決めていたとはいえ、取引先の会社の一室で迫られた突然の要求。あまりに常識を逸脱したその命令に、健一は狼狽するばかりとなってしまう。 「大丈夫だよ、来客中のこの部屋に誰かがいきなり入ってくる事はない」 「でも……」 しかし須藤は、健一へと厳しい眼差しを向けてきた。 「そんな事も出来ないのに、君は私の『接待役』が務まるとでも?」 「………」 「出来ないのなら、もう君には何の用もないよ。さっさと帰りなさい」 「部長……」 「私は君に強制するつもりはないさ。だけどね、そういう曖昧な態度が私は一番嫌いなんだよ。私の言う通りにするか、それとも諦めてさっさと帰るか、早くどちらかを選んだらどうなんだ?そうやって何もしないでダラダラ時間を過ごされても、こっちだって正直迷惑なんでね」 まるで掌を返すかのごとく、須藤は健一へと痛烈に言い放つ。 その理不尽さに、健一はさすがに席を立ちそうになってしまう。しかし寸前のところで、健一の理性が感情を押し止める。須藤との密約に応じたという事がどういう意味なのか、その最初の試練ともいうべきハードルを健一は試されていた。 「や、やります……言われた通りに、します……」 震える声で、健一は苦渋の決断を示す。 「なら、早くしなさい」 すかさず、須藤は健一へと行動を求めてくる。 須藤と向き合ったまま、健一はソファーから立ち上がった。 「その……脱ぐというのは、つまり……」 「全部に決まってるだろ」 「………」 ここで須藤の機嫌を損ねさせれば、何ら自分が得られるものはない。健一は言われるがまま、須藤からの要求に従うしかなかった。 そして須藤が見守る中、健一は最初にスーツの上着を今まで座っていたソファーの上へと脱ぎ捨てる。 次にズボンのベルトへと手を掛けた。緊張に指が震え、毎日繰り返している何気ない動作のはずがどうしてもぎこちなくなってしまう。しかしそれでも、健一は須藤の望む姿にならねばならなかった。 ズボン、ネクタイ、ワイシャツ、それまで健一の身に纏っていた衣服が次々と失われていく。他人に監視される中で肌を露出するという行為に、健一は居た堪れない羞恥心を覚えてならなかった。 やがて健一の身体に残されたのは、靴下を除いて下着のみとなってしまう。さすがにその最後の行動を前に、健一は躊躇いを覚えずにいられない。 そんな健一を、須藤は黙って見据え続ける。 健一に猶予はなかった。 (耐えろ!) 己の迷いを振り払う様に、健一は心の中で叫んだ。 大学を卒業して未だ三年程度の社会人とはいえ、健一はこれからの将来というものに如何ともし難い閉塞感を抱く日々が最近は続いていた。希望を見出せず、あるいは自分から会社に見切りをつけ去っていった幾人もの同僚達。実力主義という名の元に昇進はおろか昇給すらままならぬ現状。命ぜられた仕事をただこなすだけで精一杯な中、ここから飛躍するチャンスや成果を見つける余裕すらない毎日。 入社して以来、健一は自分がいかに中途半端な人間であるかを思い知らされるばかりであった。そんな日々の中、突然須藤から提示された悪魔の誘惑とでもいうべき取引。F社の生命線ともいうべき大手取引相手T社の時期重役とも噂されているこの須藤と個人的なパイプが築ける事は、サラリーマンとしてこれ程魅力的なものはなかった。 (くそっ、俺にだって野心はあるんだ!) 臆してしまいそうになる自分自身へ、健一は必死に言い聞かせようとする。 健一は覚悟を決めた。そして感情を押し殺し、穿いていた下着を須藤の前で引き下ろす。 応接室の中で、健一はついに裸体となってしまう。それはあまりに異常なる光景であった。もし今ここで誰かが何も知らずに入室してきたら、想像するだけで健一の心は恐怖に押し潰されそうになる。 だが命令である以上、健一は全裸のまま須藤と向き合い直立不動を強いられた。 須藤はそんな健一を、ただジッと眺めてくる。それこそ頭の先から爪先まで、余す事なく健一の肌へと男の視線が浴びせられていく。 恥辱と惨めさに、健一は身悶えんばかりに苛まれてならなかった。 「もっと脚を広げて、両手を頭の後ろで組むんだ」 須藤はやがて、そう健一へと指示してくる。 言われた通りに、健一は脚を左右へ広げながら、両手を後頭部へと回して組む。身体のわずかな動きに、垂れ下がっていたペニスがわずかに揺れる。 まるで投降した敗残兵のごとく、健一は誇りを全て奪い去られ須藤への服従を徹底して強いられる気分だった。 「まずは、合格といったところだね」 もはや抗う様子など微塵もない健一の姿に、須藤は満足そうに言ってくる。 「しかし君、スーツを着ている時は少し華奢な印象だったんだが、意外に引き締まったいい身体をしてるじゃないか。鍛えてるのかい?」 「今は特に……ただ、学生時代に運動部だったので……」 「ほぅ、何をしてたんだい?」 「サッカー部でした……」 「君のユニホーム姿も、なかなか様になるんだろうねぇ。一度見てみたいものだよ」 「………」 まさに舐めんばかりの陰湿で執拗な須藤からの視線。男相手に自分がどんな目でこの身体を見られているのか、考えるだけで健一はおぞましさを覚えてならない。 「あの……もう、よろしいでしょうか……?」 そんな須藤へ、健一は恐る恐る問い掛けた。 しかし健一のそんな一言が、須藤の表情を一気に険しくさせてしまう。 「君に一言伝えておく」 須藤の口調は一変した。 「命令に従う事が最低条件だ。そして何より、私に対して余計な事を口にするな」 「……申し訳ありません」 「分かったなら、そのままジッとしていなさい」 不意に、須藤の右手がテーブル越しに健一へと伸ばされる。 「あっ……!」 健一の無防備なペニスが、須藤の指でいきなり摘み上げられた。 思わず声を上げ、健一はその手から逃げようと反射的に後ずさりしてしまいそうになる。 しかしその動きを、すかさず須藤の視線が無言で制す。 「どうかしたのかい?」 「い、いえ……何でもありません……」 「安心しなさい、私だって君に無茶な事を要求したりはしないさ」 「………」 健一は硬直したまま、微動だにする事も出来なかった。 その間、健一のペニスや睾丸を摘んだり掌の上へ乗せたりと、まるで検分する様に須藤は手で弄っていく。 急所でもある股間を他人の手に委ねなければならない事に、羞恥や屈辱よりも恐怖を覚えずにいられなかった。しかしそれでも抗う事など許されない健一は、須藤のされるがまま必死に耐え続ける。 「それにしても、なかなか君のは立派だねぇ」 健一のペニスへ魅入る様に、須藤が呟く。 「ぜひ勃起した逞しい姿も見てみたいものだが、今のこの様子じゃまだ無理そうだね」 「はい……」 その時、ペニスの先端を須藤が摘んできた。 「っ……!」 仮性気味だった健一の包皮が、須藤の手で強引に剥かれる。 ピリッとした鋭い感覚が、一瞬ペニスの先から走る。それまで少しばかり顔を覗かせる程度だった亀頭が、須藤の前にその姿をありありと露わにさせられた。 しっかりと剥けた健一のペニスを、改めて須藤はマジマジと眺めてくる。 「君もまだ若いんだし、これを毎晩慰めなきゃ気が済まないだろ?」 何を思ったか、急に野卑な話題を須藤は健一へと投げ掛けてきた。 「べ、別に……そこまでは……」 戸惑いの中、健一は返答に窮してしまう。 「昨日の夜は、したのかい?」 「いえ、昨日は……」 昨夜はとてもそんな事をする気分などではなかった。今日というこの日の決断を控え、健一は不安と葛藤の中でほとんど寝る事すら叶わないまま朝を迎えたのである。 「君は普段、週に何回くらいオナニーをするんだい?」 そんな中、さらに須藤の問いは続く。 「特に、そういうのを数えたりはしないので……」 「大体の目安くらい分かるだろ?」 「………」 「質問には、正直に答えて欲しいものだね」 返答を濁そうとする健一に対し、威圧の込められた苦言が向けられる。 「夜に暇な時とかは……し、します……」 「質問の答えになってないよ?」 「すみません……夜一人の時は……ほぼ、してます……」 「このくらいの事を、なぜすぐに答えられないのかな?」 「申し訳ありません……」 全裸のまま須藤へと謝罪の言葉を口にしながら、健一は本気で泣き出したい衝動に駆られてならなかった。 しかし須藤は、そんな健一の秘すべきプライベートをさらに掘り下げていく。 「初めてオナニーをしたのは、いつだい?」 「十三くらいの時だったと、思います……」 「きっかけは?」 「その……特にきっかけというものは……何となく、覚えたというか……」 「何となく触っていたら、気持ちよくなって射精したって感じかな?」 「はい……」 裸を曝け出すのとはまた違う羞恥と屈辱に、健一は塗れていく。 「オナニーは、普段どういう風にするんだい?」 「普通に、自分のを擦るというか……」 「ただ擦るだけかい?オカズとかがあるだろ?」 「AVや、ネットの動画などで……」 「どういうのが好きなんだい?」 「特に、これといったものは……」 「好みくらい、あるんじゃないかな?」 すかさず、須藤は健一を問い詰める。 「制服とか、企画物といったものが……好きかもしれません……」 「私も古い人間でねぇ、企画物ってどういうものなんだい?」 「街中で素人の女性をナンパしたりとかして……ドキュメンタリー的な要素が強いものだと思っていただければ、いいと思います……」 健一の瞳はいつしか涙で潤んでいた。 全裸のまま己の性生活を赤裸々に告白させられながら、健一のプライドは徹底的に打ち砕かれていく。 これも全ては仕事のためだと、その大義名分の元にひたすら須藤に対し忍従する健一であったが、こんな己の惨めな姿と無理矢理に向き合わされながら、人としての誇りを奪われるという事の残酷さとその耐え難い苦痛を、生まれて初めて思い知らされるのだった。 しかしそんな健一に対し、須藤は一切憐憫の情を示そうとはしてこない。明らかに須藤は、健一に精神的苦痛を与えて楽しんでいる様にしか見えなかった。その容赦ない加虐さは、無条件に従わざるおえない健一に屈辱よりもむしろ底なしの絶望を植え付けていく。 「しかし、君だってオナニーだけの虚しい毎日じゃないだろ?若くて容姿もいいし、これで今までに何人も女の子を悦ばせてきたんじゃないのかい?」 須藤はさらに健一へと問うてくる。 「そんな事は……」 「経験がないって訳でもないんだろ?」 「は、はい……」 「初体験は、いくつの時だい?」 「十七の時です……」 「相手はどんな子かな?」 「学校の同級生でした……」 「初めての、場所は?」 「彼女の家で……親が、留守の時に……」 「初めてのセックスは、気持ちよかったかい?」 「お互い初めてだったんで……あまりそういう事を感じる余裕もなかったというか……」 「でも、それからもその彼女とは何回もしたんだろ?」 「はい……」 溢れ出しそうになる涙を、健一は懸命に堪え続けた。 「どういう風に、彼女とやってたんだい?」 須藤は、さらに具体的な回想と告白を健一へと強いていく。 「普通に……正常位で……」 「それじゃあ、よく分からないなぁ」 すると須藤は、自分達の間にあるテーブルへと視線を向けた。そしてペニスから離した手をテーブルの上へと軽く置きながら、健一にその存在を指し示す。 「ちょっとこれをその彼女だと見立てて、再現してみてくれないかな?」 健一はその要求に表情を引き攣らせる。 「さ、再現……」 「簡単な事だろ?それとも、こんなんじゃとても表現出来ないくらいに、ハードなプレイでもしてたのかい?」 「いえ……そういう訳では……」 「なら、出来るだろ?」 「………」 拒否権など健一にあるはずがなかった。在りし日の恋人と過ごした青春の想い出までもが、今や無残に穢されていく。 健一は置いてあった書類を片付け、テーブルの上へと跨った。そして表面へと身体を突っ伏す。 ひんやりとした感覚が、肌へと広がっていく。健一はテーブルの両端を掴みながら、ぎこちなく腰を動かし始めた。 無機質なその物体を恋人役に、須藤の命じるまま健一の性行為が虚しくそして残酷に演じられ続ける。 (ぶっ殺してやる!) 健一は涙を堪え、心の中で叫んだ。この応接室でのわずかな時間の間に、ありとあらゆる屈辱を味わいながらなお何も出来ずにただ従うだけの自分。自己嫌悪が渦巻く中、健一はひたすら須藤の前で腰を振り続けた。 しかし一向に、須藤から終了を告げる許しは出ない。 さすがに耐え切れなくなり、健一は身体を起こして須藤の様子を伺う様に、怯えた顔を向けた。 「だめだ、まるでリアリティがないね」 健一へと、須藤は冷たく言い放つ。 「もっと真剣にやりなさい、その机を本物の彼女だと思ってね」 「ですが……」 「今さら、泣き言かい?」 「いえ……ただ、その……」 「嫌なら、さっさと帰っていいんだよ?私は止めやしない」 有無を言わさず、須藤は健一の反論を封じる。 須藤からの叱責に、健一は机に跨ったまま途方に暮れてしまう。 そんな健一へ、苛立ちを見せる様に須藤は溜息を吐いてきた。 「この程度の要求もクリアー出来ないのなら、君の接待など受けても意味はないね」 今までの努力が全て無駄であったかのごとき、須藤の言葉。健一の焦燥はいよいよ募っていく。 「もう一度……やり直させてください……」 もはや引くに引けず、健一は必死になって須藤へと懇願した。 「今度は、ちゃんと出来るんだろうね?」 「頑張ります……いえ、出来ます……」 「いいだろ、もう一回やってみなさい」 健一に後はなかった。再び机の上へと身体を突っ伏しながら、腰を振り始める。 いつ終わるとも知れない惨め極まりない須藤からの試練。一切の恥やプライドを捨て、須藤の忠実なる奴隷と化す。数々の屈辱的な要求の本質がそこにあった。 (何も考えるな、こいつが喜ぶ事だけに集中すんだ!) もはや理性も体面も、今の自分には足枷以外の何ものでもない。健一はただ無心になり、無我夢中で腰を動かしていく。 須藤からの要求通り、健一は目の前のテーベルを恋人だと必死になって思い込もうとした。今自分に出来るのは、ひたすら誠意と忠実さを須藤へ示す事以外にない。健一は腰を振りながら、いつしか己のペニスをその表面へと激しく擦り付けていた。 (やってやるよ、俺だってあんたを利用してのし上がってやる!) 剥き出しとなった亀頭が、テーブルとの摩擦で敏感に刺激されていく。健一はそれでもなお、いっそう強くペニスを密着させながら腰を動かし続ける。 健一は強く目を閉じ、暗闇の中で恋人との交わりの記憶を真剣に蘇らそうとした。初めての性体験、五感で知った女の感覚、男である事を自覚したあの絶頂の瞬間。今のこの時も場所も、そして須藤の存在をも忘れ、あの日の時間に健一は心を没頭させていく。 「はぁ……はぁ……」 しだいに荒くなっていく吐息。テーブルと摩擦し合う股間は、いつしか急速に熱くなり始める。それまで力なく萎えていた健一のペニスが、繰り返される刺激によって確実にその幹を硬くさせていく。 全ては須藤を満足させるため、健一は己という存在を淫らな見世物として徹し続けた。 「んっ……んぁっ……」 自然と、喘ぐ様な声が口から洩れる。刻々と昂ぶる衝動が、夢想に耽る健一をいよいよ大胆にさせていく。 「あぁっ……」 いつしかペニスは、欲望を火照らせながら張り詰めんばかりに怒張していた。机へとの摩擦は、やがて紛れもない性感として健一の中を駆け巡っていく。 そんな健一の姿に、無言のまま須藤は視線を向けていた。先程とは打って変わり、その瞳は快感に悶える青年を前にして爛々と輝き出す。 「部長……」 「続けるんだ」 須藤の命に、ただ単純に健一は従う。 「君を見直したよ、なかなかやるじゃないか」 やがて須藤は、感嘆する様に健一へと言葉を送ってくる。 しかしそれでもなお、健一は安心して気を抜く事はしなかった。己という存在を犠牲にした以上、今はもう須藤に気に入られるためにも徹底してこの男が喜びそうな演出をしなければならない。 「い、イクッ……もう、限界です……!」 健一は訴える様に、須藤へと己の状態を伝えた。 「射精しそうなのかい?」 「はい……」 泣きそうな声で、健一は答える。今や健一のペニスは逞しくその幹を反り返らせ、溢れ出す先走りの滴が机の上へボタボタと垂れ落ちていた。 「どうしたい?」 須藤がどこか意地悪っぽく、健一へと問うてくる。 「部長の……ご指示のままに……」 「君は、どうしたいんだ?」 「したいです……射精して、気持ちよくなりたいです……」 次なる須藤の言葉を待つ間、健一のペニスは力強く何度も跳ね上がる。 「なら、君の好きにしなさい」 須藤のその一言に、健一は答えるよりも先に行動で示していた。 先走りによってベトベトに濡れていく健一のペニスと机。それでもよりいっそう激しく、健一は欲望の塊と化したそれを机へと何度も擦り付けた。 やがて、健一の強張った身体がブルブルと著明に震えていく。 「あっ……あぁっ……!」 背筋を大きく仰け反らせ、ついに健一は机の上で己の欲望を勢いよく吐き出させた。 その絶頂に達した健一の姿に、須藤はすっかり釘付けとなる。 痙攣する様に、健一の身体がその後もしばし震え続けた。脈打つペニスからも、断続的に白濁が噴き出る。 「君の熱意と努力は、本物だって事が今ので十分に分かったよ」 「………」 絶頂の余韻にしばし呆然自失となりながら、健一は須藤からの言葉を耳にする。 「君からの接待なら、十分に受ける価値はありそうだ。いや、むしろ余計に楽しみでしょうがなくなったくらいだよ」 「ありがとうございます……」 射精を終え、その反動とばかりに激しい疲労と倦怠感が健一を襲う。机の上に身体を乗せたまま、しばらく健一は動く事が出来なかった。 「今後の日時については、また追って連絡をするよ。それまでの間、しっかりと英気を養っておきなさい」 そう言うと須藤は踵を返し、まるで何事もなかったかのごとく健一を残して部屋から出て行こうとする。 「あの……部長……」 須藤の背中へと、健一は声を振り絞った。 「今日はもう、帰っていいよ。今回の商談についての話は、こっちでもちゃんと会社へ連絡しておくから安心しなさい」 「………」 ドアの前で須藤は静かに振り返る。精液に塗れた机と、全裸のまま放心するまさに満身創痍といった健一の姿。 須藤はどこか嘲笑する様な眼差しを、そんな健一へと向けてきた。 「自分で出したものなんだし、その後始末は君に任せたよ?」 そう一言伝えると、そのまま須藤はさっさと部屋から出て行ってしまう。 ドアが閉められ、ついに部屋の中は健一のみとなる。誰もいなくなったその静寂の空間で、ついに耐えきれなくなった青年は一人涙するのだった。 COPYRIGHT © 2012-2024 アロエ. 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作者 アロエ さんのコメント お盆に暇だったんで何となく書いたものです。とりあえず作者はノンケがいちから調教されるっていうのが好きです(笑)
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