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目覚める欲望 (2)


記事No.182  -  投稿者 : アロエ  -  2013/06/26(水)19:14  -  [編集]
「いかがです、安藤先生?」
 そんな安藤へと、すかさず西岡が問い掛けてきた。
 慌てて、順の身体から安藤は顔を背ける。
 居た堪れない安藤の様子を眺めながら、西岡が嘲笑う。
「今さらそんな真面目ぶっていてもしょうがないでしょ?ここには私達しかいないんですから」
「私は……」
「川野も、先生に見られて今日はいつも以上に興奮している様ですよ」
 そそり立つ順のペニスへと、西岡の手が再び伸ばされる。
 指先が、太い幹へと軽く触れた。
「あっ……!」
 甲高い声を発しながら、順は身を震わせる。
 裏筋の辺りを、西岡の指が軽く刺激を加えただけであった。しかしそれだけで、順のペニスは大きく跳ね上がる。
「こんな姿を見ても、まだ川野を哀れな被害者だと思いますか?」
「………」
「お前からもちゃんと、先生に分かりやすく今の気持ちを伝えてやれ」
 反論出来ぬまま黙り込む安藤を横目に、西岡が順へと促す。
「き、気持ちいいです……監督に、チンポ扱かれて……気持ちよくて……堪らないです……」
 涙声で、順はたどたどしく答えた。決して西岡に逆らう事など許されない、絶対服従の関係がそこに垣間見える。
「嘘だ……」
 そう声を引き絞るのが、安藤にはやっとだった。
「まだ疑うんですか?」
「あなたが無理矢理……川野だって、こんな事を本気で望んでなんか……」
「なるほど。確かに、先生の意見にも一理ある」
「………」
「ですが、彼が興奮してこんな姿になっているのもまた、現実なんですよ?」
「それは……」
「いつまで、そんな薄っぺらい正論でこの状況に対抗出来ますかねぇ」
 窮する安藤へと、不敵に西岡が言い放つ。
「え?」
「川野、そんな距離じゃ安藤先生も見えにくいぞ」
 そう言うと、西岡は順の背中を軽く押した。
 すると、それまで直立不動だった順が足を前へ踏み出す。
 一歩、また一歩と、ぎこちない動作ながらも、順は安藤へと近付いてくる。
 安藤の中で緊張が一気に高まっていく。だがどうしていいのかすら分からず、安藤はそんな順にオロオロするばかりであった。
 やがて、順が足を止める。
 互いの距離は二メートルもなかった。間近にまで迫る順を前に、なぜか安藤は圧倒させられてしまう。
「始めろ」
 そんな順の背後から、西岡が静かに言ってきた。
 西岡からの言葉を合図に、順は己の勃起したペニスを右手で掴む。
「なっ……!」
「僕の、オナニーを……ザーメンをぶちまけるところを……見ていてください……」
「か、川野……」
 ギュッと瞼を強く閉じ、怒張した幹を順は扱いていく。
 事前に、西岡から命ぜられていたとしか思えない行為。だがその従順さが、いっそう順の悲痛さを際立たせていく。
「んんぅ……あっ……はぁっ……んっ……」
 だが、そんなあまりに残酷な自慰行為を強いられながらも、順はまた呼吸を乱しながら妖艶ささえ漂う喘ぎを洩らし始める。
「どうです?川野は先生にオナニーを見られながら、本気で興奮してるんですよ?」
 勝ち誇った様に、西岡は言ってきた。
「何で……こんな……」
「見てください……もっと、僕の淫らで惨めな姿を……」
 ペニスを掴む順の手は、いっそう活発に動かされる。
 張り詰めた亀頭はすっかり充血し、いつしか透明な液体によって潤いに満ちていく。
 そんな間近での光景に、西岡は完全に圧倒させられてしまう。
 止めどなく溢れ出す先走りの汁が、反り返ったペニスを濡らしていく。その何滴かが足元の床へと垂れ落ちる。
 湿った摩擦音が、順の荒い吐息に交じって増していく。
「い、イクっ……もう、僕……」
 順は顔を紅潮させ、大きく背筋を仰け反らせる。
「何だ、今日は随分と早いな。安藤先生の前でオナニーをするのが、そんなにいいのか?」
 しだいに、順の足腰がガクガクと小刻みに震えていく。
 だがそれでも、安藤はもうそんな順から視線を背ける事が出来なかった。
あの日見た、爽やかなスポーツ少年の面影などもはや微塵もない。人前でペニスを勃起させながら自慰の快楽によがる少年に、安藤の瞳は血走っていた。
「あっ……あぁっ……!」
 感極まった順の声が、室内に響き渡る。
 順の中で渦巻いていたあらゆるものが出口を求めて破裂したかのごとく、ペニスから大量の白濁が一気に噴き上がった。
 安藤の足元にまで達する程に、順の精液が勢いよく弧を描いて床へと降り注ぐ。
 絶頂の中で、順の身体が痙攣する様に震えていた。それでもなお、順はペニスを扱く手を止めはしない。最後の一滴まで絞り出すかのごとく、ペニスからはしばらく断続的に白濁がドロドロと吐き出される。
(これは、本当に現実なのか……)
 順が射精するその一部始終を目の当たりにしながら、安藤の中で何かが根底から覆されるかの様だった。
 そんな安藤と順を、西岡が満足そうに眺める。
「先生には、少し刺激が強過ぎましたか?」
 西岡はそう言うと、射精を終えて脱力していく順の傍にまで近付く。
「狂ってる……」
 考えるよりも先に、自然とそう安藤は口走った。
 快感の余韻からしだいに正気を取り戻し始めていた順が、安藤の言葉によって一気に表情を引き攣らせる。
「おやおや、そんな事を言うと川野が傷付きますよ」
「どういう事なんだ、これは!」
 衝撃的な現実の数々に思考が対応しきれない安藤は、喚く様に西岡へ問い質す。
「先生、声が大きいですよ。もし誰か来たらどうするつもりなんです?もうこの状況じゃ、先生だって共犯と疑われるかもしれませんよ?」
「ふざけるな!」
「落ち着いてください、ちゃんとこれから説明はしますから」
 だがそんな西岡に、順の表情は狼狽を濃くしていく。
「か、監督……」
「お前は黙ってろ」
「………」
 西岡の鋭い眼差しを向けられ、順はそれ以上何も言えずに黙り込んでしまう。
 畏縮した順から、西岡は床へと視線を向ける。
「それより川野、かなりザーメンをぶちまけたもんだな。自分で出したものだ、ちゃんと綺麗にしておけ」
 冷酷に、西岡は順へと命じた。
 すると順は、苦虫を噛み締める様な表情になりながらも、その場へと静かに跪く。
 床には、今さっき順が放出した大量の精液が撒き散らされていた。
 そんな床へと、順は両手をつく。深々とまるで土下座でもする様に、順はそのまま上半身を前のめりに傾けていく。
「え……」
 安藤は絶句する。
「構いません、川野も慣れていますから」
「………」
 鼻先が触れそうなまでに、順は床へと顔を沈める。
 その光景に、安藤は何も言えなかった。
 突き出された舌が、プルプルと震えている。順の様相は嫌悪に満ちていた。だがそれでも、床の上に落ちた己の白濁を順は無言で舐め取っていく。
「それじゃ、最初から説明を始めましょうか」
 床を舐めながら一度出した精液を飲み込むというあまりに唾棄すべき行為を強いながら、西岡は順を無視して話を進め始める。
「ご存じの通り、川野は我が部期待のエースでね。しかも部活だけじゃなく勉強の成績もよくて、まさに非の打ちどころもない優等生なんですよ、表向きはね」
「………」
「その上、容姿もなかなかのイケメンでしょ?こんな彼が、周囲の女子達にモテない訳がない」
「だから……それが、何なんですか……?」
 順のあまりに過酷な光景と西岡の話、安藤はどちらに集中していいのか戸惑ってしまう。
「ここからですよ、重要なのは。女子達に人気があり、しかも青春真っ盛りの高校生です。当然ながら、川野だって色恋沙汰に無縁であるはずがない」
 意味ありげに、西岡は言う。
「まぁ、中学時代からの付き合いだったそうですよ。川野には彼女がいました」
「………」
「分かるでしょ?年頃の男女がいい仲になれば、自然とやるべき事もやってしまう。しょうがない事とはいえ、欲望に負けてしまった川野はそこで取り返しのつかない失態を、やらかした訳なんです」
「失態?」
「その彼女を、川野は孕ましてしまったんです」
 安藤にとって、衝撃的な事実であった。
 白濁に塗れた床を舐めていた順の動きも、そこで止まってしまう。
「気付いた時にはもう後の祭りですよ。高校生同士の男女が子供を産んで、養っていけると思いますか?まぁ不可能ではないでしょうが、相当な覚悟と責任が必要だ。かといって中絶するにせよ、もう二人だけの問題では済まなくなる。最悪、不純異性交遊で退学。それがなくても、確実に水泳選手としてのキャリアは早々に潰れてしまう」
「………」
「そんな中で、川野はどうしたと思います?」
「………」
 一旦、西岡は説明を区切って順へと視線を向け直す。
「早く床を綺麗にしろ」
「監督……もう、お願いですから……」
 床へと身を屈したまま、順は西岡へと顔を上げる。涙で溢れたその瞳が、西岡に許しを請うかのごとく切実に訴えていた。
 だがそんな順を見下ろしながら、西岡が鼻で笑う。
「男として何の責任も取れなかった腑抜けが、恩を受けた俺に逆らうのか?」
 順の心を無常に踏み躙るかのごとく、西岡はそう吐き捨てる。
「今言った通り、恋人の妊娠に川野は何も出来なかったんですよ。親にすら自分のした事を打ち明けられず、こいつは私に泣きついて来ました」
「………」
「顧問である私以外に、頼れる大人がいなかったらしい。川野は私に恋人の事を話し、何とかして欲しいと懇願してきたんです」
「………」
「全く、都合のいい要求でしたよ。この事は誰にも知られずに解決したい、つまり子供を中絶したいとね」
 いつしか順は、さっきよりも必死な様子で床の精液を舐め取っていた。西岡の話を耳にしたくない一心で、この惨めな作業に没頭しているかのごとく悲壮な雰囲気さえある。
「それで、どうなったんですか……?」
 もう後に引けない安藤は、最後までこの事実の帰結を聞き出す以外になかった。
「結果的に、私が闇で中絶出来る所を探してその費用も工面しましたよ。全く、一人の部員の保身のためにかなりの苦労と出費でした」
「………」
「つまり、そういう事ですよ」
「それをネタに……川野を脅迫して……」
「脅迫?私は、川野の窮地を救ったんですよ?それに対して、川野が恩返しをするのが当然でしょ」
 安藤からの糾弾を、西岡は何ら意に介す事なく受け流す。
「恩返しだ……?あんた、こんな事をしてる自分をそれで正当化するつもりか……?」
「全て川野は承知して、私の救いにすがったんですよ」
「だからって!」
「川野の自業自得です」
 なおも床を舐め続ける順を見下ろし、西岡が言う。
 床へ這い蹲り、丸まった順の背中が震えていた。
 人としての誇りを全て失い、西岡の意のままに従い続ける順の姿。優等生として、そしてあの輝かしい選手としての栄光とを引き換えに背負った代償と過酷さを、安藤はまざまざと見せ付けられる。
(この子は、今日まで一体どれだけ惨い目に……)
 想像するだけで、安藤は頭が重くなってきてしまう。順のあまりに健気な従順さが、余計に西岡による過酷な仕打ちを物語っているかの様だった。
 だが順に対する憐憫と同時に、また違う感情が安藤の中で芽生え始める。
 安藤の脳裏には、さっきまでの逞しい男根をそそり立たせた少年の姿が強く焼きつく。西岡に辱められ、自分の前で自慰と射精を強いられながら、それでもあの時、明らかにこの少年は快楽に耽溺していた。
 ゴクリと、安藤は生唾を飲み込む。
(なぜ……西岡は、俺にそんな秘密を話した……?)
 決して誰にも知られてはならない順の真実を、この瞬間に自分は共有してしまった。そして西岡はもうすぐ、この学校から去るのである。
 新学期には、順の秘密を知る人間は安藤以外に誰もいない。


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とりあえずもう少し続けます