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選考会


記事No.255  -  投稿者 : りょうた  -  2015/09/05(土)07:40  -  [編集]
「いらっしゃいませ」
「すみません、大日本第一工業の13時からの選考会に来たのですが、会場はどちらですか?」
「はい、面接は客室の一室で行いますが、そちらの右手奥の会議室でお待ちください。」

スタッフが指し示した通路の奥の"大日本第一工業(株) 選考会 待合室"と書いてある部屋に入ると、
既に3人程の男が椅子に座って順番を待っている。
入り口を入ってすぐのテーブルに置いてある用紙の挟まれたバインダーとペンを取り
左列の一番手前側に座る。俺は求人誌の裏表紙にデカデカと求人広告を出している大会社の期間工の
選考会に来ていた。大学卒業後、印刷会社の事務をやっていたが上司のパワハラに嫌気が差して
2年程で辞め、ココ3年は短期のバイトで食いつなぎながら転職活動してきたが、どれだけ
求人を探したところでこんな地方じゃ高卒の俺にできる仕事は介護職や出来高制の営業、それか飲食店
くらいしか正社員の仕事はない。東京に出ようにもバイトしながらの一人暮らしじゃまとまった上京資金も
なかなか作れない、年だけは取ってく。どうしたものかと悩んでいるときに目に入ったのがこの求人だった。
早番遅番の交代制勤務、月給28万、深夜手当有り、寮費無料、さらに今月中に入社すれば夏季手当付き。
ただ仕事がきつく途中で逃げ出す奴も多いと聞くが、これに賭けるしかないと決意し隣町の駅前のホテルで
行われるこの選考会に来たってわけだ。
用紙に書かれたエントリーシートへの記入を終え、辺りを見渡す。右列の3、4列前の方に日に焼けた若い男が2人
と俺と同じ左列の一番前に小太りのおっさんが一人。しばらくして若い男2人が話はじめる。

男A「面接、どんなこと聞かれるんすかね。」
男B「まあ、ダイニチの期間工っすから、そんな難しいことは聞かれないっすよ。」
男A「確かに、履歴書もボールペンも要らなくて、カラダだけ持ってけばいいってよく聞きますし、本当にその通りでしたもんね。」
男B「あ、でも俺が面接行くって知った地元の先輩がつい昨日教えてくれたんすけど、面接して見込みがある奴は
服脱がされてパン一にさせられるらしんすよ!」
男A「おい、マジかよ?パン一ってパンツ1丁?なんで?」
男B「ほら、この仕事ってガテンっつうか力仕事だからガタイの良さとか、あと最近は刺青が無いかとか見てるらしいっす。」
男A「あぁ、コンプライアンスとかウルサイですからね。」

「マジかよ?」と驚いたのはこの前にいる男だけじゃない。俺もかなり驚いた。それを知ってたらこんなヨレヨレの薄くなった
ボクサーじゃなくてもうちょとマシなの履いてきたのにな。まあ、もう仕方ない。
そうこうしているうちにダイニチの面接官が2人部屋に入ってくる。一人はスラットした真面目そうな、もう一人はいかにも元体育会系って感じで
スーツの上からでもわかるくらいに肉付きの良い大柄の男だ。
真面目そうな方の男が口を開く。
「皆さん、こんにちは。本日は応募いただきありがとうございます。全員、エントリーシートにはご記入いただけましたでしょうか?」
それぞれが静かに頷くのを確認すると面接官の2人はごにょごにょと小声で話し始めた。なにやら面接の順番を決めているらしい。

「ではこれから2手に分かれて面接を行います。こちらの右列のお2人はこちらの柴田が担当します、2人一緒に面接しちゃいます。
あとのお2人は私、水島が担当になりますね。で、一番後ろの君は順番最後になるから、少しここで一人で待っててください。終わったら呼びに来ますね。
まあ、20分くらい待っててもらえばいいから。この後の予定とか大丈夫?」
俺「特に無いので、大丈夫です。」

「はい、じゃあいきましょうか。」

(あ、水島君の方って部屋番号いくつだっけ?)
(1015号室です。)
(終わったら待ってて、そっちいくから。)
(了解しました。柴田さんも鍵持ってますよね?)
(あぁ。)

耳の後ろでそんな声が遠くになりながら扉が閉まり、俺はがらんとした部屋に一人残されてしまった。
なんで俺一人残されたんだろう?俺とおっさんもあの若い男2人のようにまとめてやればいいのに。
それとも、あの若い男が話していた通り、裸になる故の配慮なのか?でも、これから食事も風呂も共同の
寮生活になるような会社がそんな配慮するのだろうか?

そんなことを考えているうち、後ろの扉が開く音がして振り向くと、先ほどのおっさんが顔を覗かせている。

「あの、次どうぞ。1015号室です。」
(思ったより早いな。)
「はい、ありがとうございます。」
おっさんの伝言の通り、エレベーターを降りて1015号室へ向かう。
エントランスと会議室は冷房が効いていたが、廊下はもう初夏の暑さがむわっとしている。

(コン、コンッ、ガチャッ!)
「どうぞ。」
「失礼します!」

「悪いね、お待たせして。疲れた?」
「いえ、そんなことは。」
「そっか。じゃあ、始めよっか。
では、バインダー渡してもらえる?書いてもらったエントリーシートに沿って面接を進めますね。
それでは、名前と年齢からいいですか?」

「名前は磯崎ヒロキ、年齢は26歳です。」

「志望動機は?」

「最初の会社を辞めてから色んなバイトしてたんですけど、工場だけ経験が無いので、やってみようかなと。御社は今まではCMでしか知らなかったのですが、
色んなメーカーに部品を納める会社なので、やりがいもあると思います。そして御社は寮もあるので、まとまったお金を貯めて上京資金にしたいと思ってます。」

「上京して何するの?」

「俺、工業高校だったんですけど、新卒のときにそういう分野では内定が出なくて。地元でバイトしているうちにもう一度そういう分野で
ちゃんと自分を試してみたいと思うようになったので。先輩に相談したら、俺らの地元じゃダメだから、どっか都会に出ないとって言われて。
それで・・・」

「ふーん、なるほどね。」

「わかってると思うけど、うちの仕事というか君の配属になる工場は体力勝負だけど、大丈夫?」

「はい、運送会社でも働いておりましたので、大丈夫だと思います、今ぐらいの暑い時期もやってましたので。」

「結構腕太いもんね。力入れてみて?」
(ぐっと力を入れる。となんの断りもなしに触ってくる。)
「おぉ、いいねぇ、この力こぶ、硬さもあるし。OK。じゃあ、上半身から脱いでみて。」
俺は着ていたポロシャツを脱いで面接官に体を向ける。

「もう少し胸を張って。」

面接官が俺の体を舐めるように見る。

「いい体してるね。お酒とタバコは?」

「タバコは吸いません、酒は結構強いと思います。」

「これからちょっと踏み込んだこと聞くからそのつもりで答えてください。
今、彼女はいますか?」

「いません。」

「今までは?」

「いません。」

「じゃあ、君童貞?」

「まあ、・・・はい。」

「オナニーは週に何回しますか?」

「2、3回ですけど・・・そういうことって関係あるんですか?」

「うーん、まあなんというか、あんまり血気盛んなのはね、喧嘩っ早いから。
うちは男4人の相部屋で風呂も共同だし、最近の人はおとなしいけど、一昔前は色々あったから、
その名残みたいな感じで。でも、その程度なら問題ないから。」

「はあ、そうですか。」

「次はね、靴下と下も脱げるかな?」
先程脱いだポロシャツの上に靴下とスラックスを重ねる。
(これがあの若い男が言っていたやつか、ホントにパン一になっちまったな。)
「頭の上で手を組めるかな?」
(・・・)

「そのままくるっと後ろ向ける?」
(・・・)

「水虫も刺青も無いね?」
「はい。」

「その最後の一枚も脱げる?」

「えっ!?そこまでしないとダメなんですか?」

「ほら、さっきも言った通り、寮での共同生活だから、未だに虱とか持ってる人とかいてね。その予防としてやってることなんだ。
できないならさっきのおっさんみたく帰るかい?」

俺は無言で服を手に取りスラックスから身に着けていく。
ポロシャツを着ようとしたその瞬間、鍵を開けて男が入ってくる。
もう一人の柴田とかいう面接官だ。
柴田「おい、何してる?」
水島「いえ、それが・・・」

「帰らせてもらいます。」と男をよけて帰ろうとしたそのとき、柴田は俺の腕を掴み強く引っ張る。
柴田「おい、縛るぞ!」
柴田にそう言われ水島はかばんからなにやら道具を取り出し、その間に柴田は俺のことを床にうつ伏せに組み伏せた。
あっという間に俺はこの2人の男によって猿ぐつわを咥えさせられ、手と足はゴムバンドで後ろに縛られてしまった。
「お前は帰す訳にはいかねぇんだよ。」
柴田が俺を全裸にひん剝き、俺のケツと股間が露になる。
柴田「なかなかイイモノ持ってんじゃねぇかよ。」

(・・・)

柴田「おい、ココ16時までだよな?」
水島「はい、もう時間が・・・」
柴田「そうだよな、お前、いつものところで準備しとけ。いいな?」
水島「はい」
柴田「俺もじきに合流する。」
そう言って柴田は水島と俺を残し部屋を出て行く。

水島「さてと。これからちょっと移動するからな。目隠しさせてもらうけど、怖がることは何も無いよ。
俺らの言うこと聞いてれば痛いことも何も無いから。」

水島は手足を縛り猿ぐつわをした俺にさらに目隠しをして部屋の片づけをしている。
最後に俺のことを入れ物に入れて運んでいく。これから俺は殺されるんだろうか?
それとも何か別の・・・
今は水島の痛いことも怖がることもないという言葉を信じるしかない。
俺はそれから車に乗せられどこかへ運ばれていく。何回か交差点を曲がり、カーブを曲がるうち、
東西南北はおろか右も左も、わからなくなっていた。上下はかろうじてわかるがそれも合っているかどうか
疑わしい。気圧が低くなっているのだろうか?耳に違和感を感じて思わず唾をごっくんする。どこか山奥に向かっているのだろう。
俺はこれからどうなってしまうんだろうか?


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作者  りょうた  さんのコメント
アロエさんの投稿の合間で非常に恐縮なのですが・・・
そのクライマックスの前座というか、せめてつなぎにでもなればと思います。