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夏祭り〜ある少年達の成長の記録〜D


記事No.309  -  投稿者 : アロエ  -  2022/08/28(日)19:57  -  [編集]
 神事を終えた人々の喧騒から離れ、宝物庫の裏手へと健史は一人でやって来ていた。
 すでに夕方の時刻。昼間の巡行を終え、神様に神輿から本殿へと戻って頂く御霊抜きの儀式が先程執り行われた。前日の宵宮から続いていた祭礼は、今年も無事に終了となったばかりだ。
 神輿は蔵に仕舞われ、ようやく担ぎ手としての役目も終える。こうして一人になり、今はむしろホッとしていた。初めて氏子として大人神輿を担いだ記念すべき日ではあったが、残念ながら気分はそれどころではない。健史は無言のまま、薄汚れた漆喰の壁を見つめる。なぜここに来たのかと、今さらながら自問自答してしまう。祭礼が終わったとはいえ、このまま境内を後にする気にはどうしてもなれなかった。
(本当に……あれは何だったんだ……)
 当然ながら今はもう、昨夜の痕跡は何も残されてはいない。自分と陽平以外、ここで何があったかなど知る由もないであろう。
 鎮守の森もこの宝物庫も、幼い頃から慣れ親しんだ場所だ。虫捕りや鬼ごっこなど、無邪気で懐かしい思い出の数々がここにはあった。だが今はたった一晩の記憶によって、それらは劇的に上書きされてしまったのだ。
『これは大人になるための儀式なんだ』
 陽平からの言葉が、頭の中で響く。今の自分はつまり大人になったのだろうか。そしてこんなにも鬱々とした気持ちを抱き続ける事も、大人になるための試練なのだろうかと、健史の中で答えの見つからない考えが繰り返される。
(きっと俺みたいに……慎一と翔も……)
 今朝境内の隅で、一人佇んでいた慎一の後ろ姿を思い出す。それ以来ずっとあの二人とは接していなかった。向こうからも話し掛けてくるといった事はなく、自分と同じ様に彼らもまた今日はずっと孤独であったに違いない。
(俺が見ていたみたいに……あいつらだって、ここで俺と東さんが何をしていたのかを、もし知ったなら……)
 慎一と翔が森の中にいる間、ここで何があったのか、健史の中で昨夜の出来事が鮮明に甦ってきてしまう。


「いっぱい出たね」
 健史の前にしゃがんでいた陽平は、そう言いながらゆっくりと立ち上がる。
 地面に飛び散った白濁が、自分の身に何が起きたのかを明確に物語っていた。茫然自失となりながらも、初めて他人によって射精へと導かれたのだという事実を、健史は改めて認識させられる。
(俺……イッたんだ……)
 自慰とは比べものにならない快感の余韻から、しだいに心は冷静さを取り戻していく。それにともない、ここまでに至った出来事をどう受け入れればいいのか、そんな煩悶を次に健史は抱く事となってしまう。無論、今さら否定する事など出来ない。
「気持ちよかった?」
 無言で立ち尽くすそんな健史に対し、陽平は余裕たっぷりな表情を向けながら問うてくる。
「えっ……その……」
 当然ながら、健史は言葉を詰まらせた。
 そんな健史の窮した様子を眺めながら、フッと陽平が軽く笑みを浮かべる。
「別に恥ずかしがる事でもないさ。むしろあんなに興奮してくれて、こっちとしても嬉しいくらいだよ」
 何を思い悩む必要があるとばかりに、あっさりとした口ぶりで陽平は言ってきた。  
「はい……」
 か細い声で、健史はそう頷く。だが対照的な陽平を前にして、この状況というものが余計に分からなくなってきてしまう。
(こんなのやっぱりおかしい……なのにどうして……)
 初めての体験であるが故に、陽平の慣れきった所作を思い出しながら、健史は違和感を抱かずにはいられなかった。いくら彼が経験豊富であったとしても、相手は同じ男である。不本意ながらも欲望を募らせていた自分を、何とか楽にしてやろうという彼の純粋な善意だったのであろうか。勃起した他人の男根を前にして、陽平からは嫌悪や躊躇いを抱く様子はまるで感じられなかった。だからこそこちらも、不安や緊張の中にあって彼に身を任せる事が出来たのだ。
(まさか東さん……でも、そんな噂なんか聞いた事は……)
 考えれば考える程、健史の心は余計に乱れるばかりとなってしまう。
「どうかした?」
 陽平からの声で、一気に現実へと引き戻される。
「えっ……あ、いえ……何でもありません……」
 顔を伏せたまま、慌てて健史はそう取り繕う。とても今は、陽平に対しそれ以上踏み込む事が出来なかった。
「ひょっとして一回出したくらいじゃ、まだ物足りないのかな?」
 そんな思惑とは別に、陽平の言葉と視線が健史の下半身へと向けられる。
(あっ……!)
 意識が自分へと向き直り、まだ恥部を露出させたままである事に健史はようやく気付く。そして射精して間もない若いペニスは、白濁を垂らしながらなおも隆々とした精力を陽平の前で保たせている。
「ち、違います……そんな事は……」
 一気に羞恥が込み上がり、健史は足元に落とされていた六尺褌を慌てて拾い上げようとした。
 だがそんな健史の行動を制する様に、いきなり陽平は真正面から身体を迫らせる。
「っ……!」
 半ば強引に身体が密着し、健史は戸惑わずにはいられなかった。そして背後の壁と挟み込まれる形となり、身動きもままならなくなってしまう。そんな陽平の行動に、確かな目的と意志を感じずにはいられない。同時に健史は、今夜がまだ終わりではないという事を悟らされる。
「今頃、あの二人はどうしてるだろね」
 耳元で陽平が囁く。
 言葉と共に肌へと触れる温かな吐息。ゾクゾクと、震えそうになる感覚が身体の中を駆け巡る。普段であれば、反射的に相手の身体を押し退けようとしていたかもしれない。だが今はまるで金縛りのごとく、健史は身を強張らせたまま微動だに出来ない状態となってしまう。
「東さん……」
 陽平の息遣い、体温が鮮明に伝わってくる。クールダウンしていた健史の身体は、急速にまた火照りを帯びていく。
「俺でよければ、今夜はいくらでも君の相手をするよ?」
「そ、そんな……」
「もっと気持ちいい事を、体験したいだろ?」
「………」
 事もなげに言ってくる陽平に、健史は息を呑む。その一方で、ペニスがビクンッと反応を示す。先程の射精が一気に過去のものとなっていく。一度快感を知った若き肉体は、狼狽の中にあっても新たな欲望を芽生えさせていた。
「あの二人は、どんどん大人の階段を登っているんだ」
 見透かす様に、健史の心を陽平がさらに揺さぶる。
「事の経緯はどうあれ、君だけが我慢する必要なんてどこにもないだろ?」
「………」
「それに俺だって、もっと君と楽しみたいんだ」
 陽平はそう語り掛けながら、健史の下半身へ脚をしっかりと絡ませていく。
「あっ……!」
 右腸骨の辺りへと押し当てられる硬い感触。健史はとっさに驚きの声を上げてしまう。
 だがそんな健史に対し、陽平は前袋に覆われた己の股間をさらに食い込ませていく。
「興奮しているのは、君だけじゃないんだよ?」
 冷静な口調とは裏腹に、陽平からの感覚は硬さだけでなく、逞しい脈動をもしっかりと伝えてきていた。
 緊張と火照りに、健史の肌は汗をじっとりと滲ませる。相手が男だという事などもはや関係なく、苦しいまでに胸の鼓動は高鳴ってきてしまう。そして密着する陽平の身体もまた、熱を上昇させていくのが分かった。
(俺に興奮している……東さんが……)
 陽平が欲望を剥き出しにさせる中で、先程までの行為はほんの前哨戦でしかなかった事を、健史はここにきて思い知らされる。
「怖い?」
 やがてそう、陽平が問う。
 だが今の健史にとって、事の問題はそんな単純な質問と返答ではなかった。
「俺に……何を……」
 声を上擦らせる健史へと、陽平からの意味ありげな眼差しが向けられる。
「分からない?」
「………」
「じゃあ今から、分からせてあげるよ」
 陽平からの言葉は以上であった。健史へそう囁き終えると、そのまま彼の耳朶を甘噛みする。
「んぁっ……!」
 不意の刺激に、健史はビクッと身を震わせた。
 すかさず陽平の右手が胸板に触れ、汗ばんだ肌に指先をゆっくりと這わせていく。
「やっ……あっ……はぁっ……」
 ゾワゾワと、身体の芯から沸き上がる様な感覚に、堪らず健史は身を捩らせた。だが壁に背中を押し付けられ、陽平から容易に逃げる事が許されない。
 その間にもさらに首筋から鎖骨の辺りにかけて、健史の肌を陽平はじっくりと貪っていく。同時に下腹部や脇腹、そして内股へと手が伸ばされる。引き締まった筋肉と、張りのある瑞々しい肌を優しく愛でる様に、まだまだ初心な少年の身体へ陽平は新たなる性感を教え込んでいく。
「東さん……んんぅっ……あぁっ……」
 いつまでも続く濃厚な愛撫に、健史は身悶え、翻弄されるばかりとなってしまう。抗おうにも四肢に力が入らない。ペニスへの刺激とはまた違う、掻き立てられる様な熱い疼きが身体中に広がっていく。それにともない、股間もまたもどかしいまでに欲求を募らせ始めていた。
(だめだ……もう我慢出来ない……)
 だが身体のあちらこちらを弄りながら、陽平は肝心な部分に今度はまるで触れようとはしてこない。それがいっそう、健史の欲求と衝動を止めどないものとさせていく。
「やっぱりまだまだ、元気が有り余っているみたいだね」
 やがてそんな股間を見下ろしながら、陽平は感嘆する様に言ってきた。
 大量の精を迸らせたはずが、今やまたペニスは弾けんばかりに欲望を激らせていた。二度目とは思えないその猛々しい勃起に、健史自身も驚かずにはいられない。先程の手淫ですっかり剥けた亀頭からは、すでに新たな先走りが溢れ出ていた。
 このままで終われる訳がない。健史は泣きそうな表情になりながらも、陽平へと向けられる瞳は切実に訴え掛けていた。
「ただ射精するだけが、男の快感じゃないよ」
 健史の求めを受け流す様に、陽平の手指は次に彼の左乳首を摘む。
「あんぅっ……!」
 すでに高ぶっていた身体へ鋭い感覚が走り抜け、健史は大きく背筋を仰け反らせた。
「ここも、敏感だね」
 指と指の間でその小さな突起をグリグリと転がしながら、陽平はさらに容赦なく攻め立てる。
「はぁっ……んぁぁっ……だ、だめっ……んんぅっ……」
 ガクガクと身体を震わせながら、健史は首を大きく反らせた。上気し、半開きの口から発せられる荒い吐息と悩ましげな喘ぎ。これが快感なのか苦痛なのかすら、今の健史には判別出来なかった。射精に突き進んでいくペニスへの刺激とは違い、終わりのない性感が身体の中で渦巻き続ける。
 そんな惑乱する健史の姿を、陽平は淡々と見守り続けていた。
「今の健史君、すごく淫らだよ」
 やがて陽平は、そう静かに言う。
 肩で息をしながら、今の自分というものを健史はその言葉によって自覚させられる。森の中での慎一達と自分が重なり合う。だが陽平の口調や眼差しは、決してこちらを侮蔑しているものではなかった。それが高宮とはまるで違う。むしろ何も知らなかった一人の少年を、ここまで自分が変貌させたのだという、陽平の自負と満足さを感じさせるものであった。
「淫ら……俺が……」
「あの二人がどうしてあんな事になったのか、今ならよく分かるだろ?」
「………」
 闇の向こうから聞こえていた、慎一と翔の艶やかな喘ぎと息遣い。確かに今なら健史もよく分かる。彼らは何も狂ってなどいなかった。例え他人の目にはどれだけ不道徳な行為に見えようとも、抗う事の出来ない悦楽というものを自分もまた知ってしまったのだ。
「だけど俺も、少し君を甘く見ていたみたいだ」
 そんな中、陽平はそう続けて呟く。
「え……?」
 言葉と共に、陽平からの行為がピタリと止まる。ここまできて急にどうしたのかと、健史には彼の意図がまるで分からなかった。
 だがそんな健史を尻目に、陽平は自らが着る法被の帯を解き捨て、そのまま露わになる褌へと手を掛ける。
 彼の行動を、ただ見ている事しか出来なかった。
 健史の視線に躊躇いを見せる事もなく、前袋の縁から陽平はついに己の男根を晒け出す。
「すごい……」
 自然とそう声を洩らし、その存在に健史は釘付けとなってしまう。
 いつも爽やかで聡明な陽平が、今は自分と勝るとも劣らない勢いで欲望を張り詰めさせていた。最初から包皮は完全に剥けており、赤黒い亀頭がその膨張させた姿を露わにさせている。そそり立つ幹も青筋を浮き上がらせていた。年上とはいえ、見ているだけで自分よりサイズが上だと容易に察せられる。だが健史には外見の差異以上に、同じ男性器でありながら格の違いを感じずにはいられない。憧れのカッコいい先輩ではなく、逞しい雄としての陽平を初めて健史は目の当たりにする事となった。
「君のだって、すごいよ」
 そう言いながら、陽平も健史のペニスを見つめてくる。少し腰を突き出せば、互いの亀頭が触れ合うそんなわずかな間隔であった。双方の幹から放たれる熱気が混ざり合う。
「オナニーはいつもしてるよね?」
 陽平が問うてくる。
「はい……」
「人に見せた事は?」
「そんな……ありません……」
「じゃあ今、俺に見せてくれない?」
「………」
「誰にも見せた事のない健史君の姿を、見てみたいんだ」
「東さん……」
「君だけに、恥ずかしい思いはさせないから」
 すると陽平は、露わにさせた自らのペニスを右手で掴む。そして健史の見ている前で、ゆっくりと手を動かし硬い欲望を扱いていく。
 その光景に健史は何も言えず、ただ魅入ってしまう。同じ男である。陽平とてこういった行為をして当たり前のはずであった。だがそれでも健史は、自分が見てはいけないものを今見ているかの様な、背徳的な高揚を抱かずにはいられない。
「ほら、健史君も」
 改めて、陽平が促してくる。
 その言葉に、もはや考えるよりも先に右手が動いていた。怒張した己の幹に指先が触れる。散々に焦らされてきた一物は、それだけで敏感に脈打つ。健史は陽平の姿を目に焼き付けながら、自身もまたペニスをしっかりと握った。硬直の度合いが普段の自慰とはまるで違う。むしろ最初の時の勃起よりも、剛健さを感じさせられる。
(俺と東さん……一緒にオナニーをしてる……こんな俺を、東さんが真剣に見てる……)
 握る手を上下に動かしていく。全身の血潮が激しく躍り上がる。誰にも見せた事も、見せるつもりもなかった行為。だが今は恥ずかしさよりも、ありのままの姿で向き合う陽平との不思議な一体感を、健史は感じていた。
「俺が初めてオナニーをしたのは、小六の時だったな……健史君は?」
 陶酔する様に、陽平の瞳はだんだんと虚ろになっていく。
「その……中一の時に、初めてしました……」
 扱く手を止める事なく、健史もまたそう打ち明ける。
「中学の頃になると、ほぼ毎日するようになってたよ」
「………」
「意外かな?」
 表情からこちらの驚きを察する様に、陽平は言ってきた。
「な、何ていうか……あんましそういうイメージ、なかったから……」
 正直な感想を健史は返す。下世話な話題で盛り上がる仲間内のノリとは違い、自分にとって尊敬する先輩である。だからこそ陽平のそういった生々しい話を聞かされるのは、健史にとって複雑なものがあった。
「みんなからはクールだとか言われてたけど、本当は頭の中じゃエロい事でいっぱいだった。オナニーの後は、いつも自分が情けなくて……だからこそ、こんなカッコ悪い自分を誰にも気付かれたくなくて、勉強や部活を一生懸命頑張ってたんだ」
 そう健史へと告白しながら、しだいに陽平の息遣いが荒くなっていく。それまで冷静に事を進めていた青年が、明らかに感情を昂らせているのが分かった。
(こうやっていつも……東さんは、オナニーをしてたんだ……)
 端正な陽平の顔が紅潮していく。そこにいるのは健史の知っている陽平ではなかった。知性的な彼が今はもう、目先の欲望と快楽に溺れていく。だがそれは決して、陽平の虚栄が剥がれていくというものではなかった。それまで自分の理想像を、陽平へ勝手に投影していたにすぎない。何も特別な存在ではなく、陽平もまた清濁や弱さが混在する一人の人間なのだと 健史はこの瞬間に気付かされる。
「お、俺だって……同じです……東さんは、カッコ悪くなんか……」
 なぜかベソをかく様な声になっていた。それでも変わらぬ尊敬の気持ちを、陽平へ必死に伝えようとする。
「もうカッコなんかどうでもいいよ……君みたいに……俺も、淫らかな……?」
 だんだんと陽平の右手は、動きを活発にさせていく。先走りの汁がペニスを濡らし、濃厚な雄の匂いを漂わせる。
「はい……東さん……堪りません……」
 愛おしげな眼差しを向けながら、健史はそう答えた。自分の鈴口からも、止めどなく先走りが溢れ出ている。二本のペニスから、グチュグチュと淫靡な音が奏でられていく。
「そのまま、続けて……」
 自身もペニスを扱き続けながら、陽平は健史の右胸へ顔を埋める。そして少年の硬く充血した乳首を、今度は舌先でくすぐる様に刺激していく。
「んっ……あぁぁっ……!」
 全身の筋肉を引き攣らせる。身体の奥深くにまで浸透していく鋭敏な感覚。ペニスを握る健史の手は、急き立てられる様にいっそう激しく動いていた。
「はぁっ……健史君……」
 そして陽平もまた、少年の身体へたっぷりと愛情を注ぎつつ、衝動のままに己の欲望を慰めていく。
 二人の限界は間近にまで迫っていた。


 気付くと健史は、自分の股間をギュッと掴んでいた。昨夜の記憶に身体は欲情する一方、心は非常に切なくなってきてしまう。布地の中で、痛いくらいにペニスが欲望を漲らせていた。荒々しい己の脈動を掌に感じながら、今朝の慎一を思い出す。
(あいつも……今の俺みたいに……)
 立ち去り際のほんの一瞬であったが、明らかに慎一は前袋を張り詰めさせていた。きっと彼もあの境内の片隅で、昨夜の出来事に思いを巡らせていたのであろう。そして彼も気付いたはずだ。あれは決して夢や幻などではない。頭の中だけでなく、確かな記憶が身体にも刻み込まれていたのだと。
「東さん……」
 小さく、健史は呟いていた。硬い股間を弄らずにはいられない。じんわりと布地が湿りを増していく。もはや悶々と立ち尽くしているだけでは済まなくなる。今すぐにでもこの褌を引き剥がし、溜まり続ける欲望を吐き出してしまいたい。
(このまま……一人で帰って……一人で、部屋でオナニーして……)
 無理だと思った。とてもそんな事で今の自分が満足するとは思えない。身体へと浴びせられたあの熱い液体の感覚を思い出し、今はもう一人でする事しか出来ないやるせなさが込み上がる。そして自分が迸らせた白濁に塗れながら、恍惚とした陽平の顔がありありと脳裏に浮かぶ。そんな彼を自分もまたうっとりと眺めていた。
「健史君」
 その時、背後から自分の名を呼ぶ声に、健史の思考は一気に停止する。
「っ……!」
 振り返ったそこには、自分が待ち望んで止まない相手が立っていた。前袋の中でペニスが強く脈打つ。優しく微笑むその表情は、自分の全てを受け入れてくれるかの様であった。そして健史もまた、彼に全てを委ねる事を決意する。


「話があるんだけど」
 背後からの突然の声であった。
 ぼんやりとしていた慎一は、心臓を鷲掴みにされるかの様な衝撃で我に帰る。慌てて声の方向へ振り向くと、いつの間にか翔がそこに立っていた。
 祭礼の神事も全て終わり、このまま神輿も蔵へと仕舞われる。正式にはこれで終わりという訳ではなく、夜に集会場にて慰労の宴会が予定されていた。氏子の責務を果たし、境内の男達も夜の集いに向けて浮かれた空気となっている。そんな中で、慎一は翔から声を掛けられた。
 本来なら気兼ねのない幼馴染である。だが今の慎一は、翔を前にして何も言えずに硬直してしまう。
 だが翔もまた、それ以上は何も語ろうとはしてこない。無言のまま、ついて来いと視線で合図をしているかの様であった。そして翔は踵を返し、慎一に背を向けるとそのまま歩き出す。
 人混みから離れていく翔の後ろ姿を眺めながら、慎一は最初どうしていいのか分からなかった。だが自分に話があると、翔が言ったのは確かである。この日、初めて彼からの接触であった。
(何もしなきゃ、いつまでもお互い気まずいままだ)
 躊躇っている場合ではないと、慎一は自分へ言い聞かせる。ひょっとすると翔の側から、この状況を打開しようとしているのかもしれない。ここは意を決するしかなかった。
 境内にある社務所の裏側へと翔は進む。人目につかないその場所で、彼はようやく立ち止まった。そして追ってきた慎一へと身体を向け直す。
 もはや後には引けない。緊張の中、慎一はぎこちない足取りでそんな翔の前へと進み出る。
「そ、それで……話っていうのは……?」
 思い切ってそう、最初に慎一が翔へと語り掛けた。
 だが呼び出した側であるにも関わらず、翔は慎一と対峙しながらも、俯き無言のまま立ち尽くす。まるで途方に暮れている、そんな様子でさえあった。
「翔……?」
 一体どうしたのかと、さすがに慎一も怪訝な表情となる。
「ごめん……慎一……」
 やがて顔を伏せたまま、翔がそうポツリと呟く。
 何を言っているのかまるで分からず、慎一は問い返そうとした。だがその時、顔を上げた翔の眼差しがこちらへと定められる。ようやく何かを覚悟したとばかりに、彼の瞳に迷いはなかった。
(えっ……?)
 ゾクっと、背筋に寒気が走る。翔の中で何かが切り替わると同時に、慎一はここにいる事の危険を本能的に感じ取っていた。
 そして翔は、こちらへと踏み込んでくる。
「待ってよ……な、何を……」
 間合いを詰められる事を恐れ、とっさに慎一は後退った。まるで理由を語ろうとしない事が、余計に不気味さと不安を掻き立てていく。
「静かに」
 だが翔はそう言うなり、さらに突き進んで慎一の左腕を強引に掴んでくきた。
 一気に全身が総毛立つ。
「離せ、やめろよ!」
 思わず声を荒げ、翔の手を必死に振り解こうとした。人気のない場所へ誘われたとはいえ、境内にはまだ大勢の人間がいる。慎一がこのまま本気で抵抗をすれば、翔とて強引な真似をして騒ぎを起こす事は出来ないはずであった。
「高宮さんからの命令なんだ」
 だが翔から発せられた言葉に、慎一はハッと固まってしまう。高宮という名に、今までとは違う意味で鼓動が高鳴っていく。
 そしてそんな慎一へと向けられる翔の表情も、苦渋を滲ませていた。
「命令って……どうして、そんな事……」
 自分の知らないところで一体何があったのかと、慎一の声は震えてしまう。
 だが翔はそれに答える事はなく、慎一へさらに身体を迫らせると、彼の下半身へ右手を素早く動かしてきた。
「っ……!」
 心を乱され、完全に無防備となっていた慎一の股間を、翔の手がしっかりと掴んでくる。
 顔を引き攣らせ、慎一は息を呑む。同時に翔の掌を布地越しに感じながら、ここに高宮がいないだけで、昨夜の出来事はまだ終わっていなかった事を思い知らされる。
「今夜も……高宮さんが、色々……教えてくれるって……」
 そんな慎一に対して、絞り出す様な声で翔が言ってきた。
 だがこちらが思考を巡らせるよりも先に、前袋の上から五本の指がさらにグイッと食い込んでくる。その感触と共に、慎一が必死に忘れようとしていた記憶が、心と身体へ一気に甦っていく。
「やめっ…んっ……はぁっ.……翔……」
 一気に股間が熱くなる。昨夜以来の感覚に、褌の中で己のものが硬く膨張していく。当の慎一ですら、こんなにも呆気なく反応してしまう自身の身体に驚かずにはいられない。
 その感触をしっかりと確かめる様に、翔はさらに指を動かし刺激を加えていく。
「慎一だって……昨日の事、忘れられないだろ……だから……一緒に……」
「そんな……ぼ、僕は……」
 狼狽する一方で、下半身は刻々と欲望を煽り立てられる。自慰以外の経験がなかったそれまでとは違い、身体中から疼きが湧き起こり、慎一の中で堪らないもどかしさが募っていく。
(だめだ……早く、逃げないと……!)
 心が行動へと繋がらない。翔に抗おうとしながらも、怒張したペニスは勢いよく脈動し先走りをすでに溢れさせていた。
 そんな切迫した股間を、翔は攻め立てていく。
「あっ……やっ……んんぅっ……」
 昂りと悶えに、慎一は何度も身を捩らせた。
「高宮さんに言われたんだ……慎一も誘えって……それで……お前を夜までに、思いっきりエロい気分にさせておけって……」
 自分が及んでいる行為の理由を、ようやく翔は口にする。
 そして慎一は気付く。翔の股間もまた、いつしか布地を露骨に盛り上がらせていた。高宮に命じられて始めた事とはいえ、彼もまた欲情に突き動かされている。
「翔……お願いだから……こんな事、絶対に間違ってる……」
 息を荒げながら、慎一は必死に訴えようとした。だが今や身体はいっそうの快楽を欲し、それを否定しようとする理性は自身にとって苦痛でしかなかった。翔を介し、自分が高宮の思惑通りになっている事を、性感に悶える中で慎一は痛感させられる。
「間違ってたって……もう、どうしようもないだろ……」
「………」
 翔からの言葉に、それ以上何も言えなかった。
 そんな慎一を、翔は改めてしっかりと見据えてくる。
「本当に嫌か、慎一?」
 問うてくる翔の眼差しから、慎一は逃げる事が出来なかった。
「僕は……」
 それ以上言葉が続かない。このまま自分達に待っているのは、さらなる辱めのはずであった。それでもなお、翔に対して拒絶を示せないでいる。
「高宮さんのとこに行けば……昨日より、もっとすごい体験が出来るんだ……」
 止めどない欲望へと訴える様に、翔は言ってきた。
 その言葉に、股間の奥からいっそう熱いものが込み上がってくる。足腰がガクガクと震えてきてしまう。どれだけ自分の心を鼓舞しようとも、それはもはやあまりに虚しい事でしかなかった。身体はすでに屈服してしまっているのだ。
(昨日よりも……もっと……)
 慎一とて、本当は分かっていた。この境内の森で、昨夜自分は夢中になって翔と快感を求め合っていたのだ。翔からの愛撫に酔いしれ、あの暗闇の中で自分は何度も果てた。そして何度果てようとも逞しくそそり立つ彼の男根を、自分もまたひたすらに慰め続けたのだ。唾棄すべき記憶として目を背けていた訳ではない。思い出してはいけないのだ。なぜならあれが最初で最後の思い出になるなど、耐えられる訳がなかった。
「んっ……はぁっ……翔……」
 幼馴染へと向けられる潤んだ瞳。もはや慎一に、抗う意志は残されてはいない。その目に宿る輝きは、昨日の夜以前の少年にはなかったものだった。
 だがその矢先、股間に対する動きが急に止まる。そして翔は、張り詰めたその部分から手を離す。
「そんな……」
 思わずそう、慎一は声を洩らす。
 翔は静かに頭を振る。
「まだだめなんだよ……俺も、夜まではするなって……高宮さんから言われてる……」
 欲望渦巻く自身の股間を見下ろしながら、翔はそう苦々しく呟く。
 なぜそんな言い付けを守る必要があるのかと、慎一は思わず言いそうになった。だがすぐに考えを改める。夜になれば、また高宮からの『指導』があるのだ。彼が自分達へ必要のない責め苦を与えているとはどうしても思えなかった。このままでは昨日と同じく、単に射精の快感を二人で追い求めるだけで終わってしまう。もっと自分達の知らない世界を、今夜は教えられる。高宮の元へ行くと決めた以上、もはや冷静になってはいけないのだと慎一は思った。
(高宮さんの言う通り……僕も翔も、思いっきりエロい気分になっておかないと……そうじゃなきゃ……)
 翔へと、右手を伸ばす。
「慎一……」
 今度は彼の股間へと、指を絡めていく。すでに布地は湿っていた。硬く、そして熱気がジワジワとこちらにも伝わってくる。出来る事ならすぐにでも褌を解き、二人で溜まりに溜まった精を迸らせたかった。
「まだ時間あるし……今度は、僕が……」
 そう言って、翔の股間へ指で軽く圧迫を加える。
「はぁっ……んんぅっ……!」
 ビクッと、翔が腰を震わせた。脈動が一気激しくなる。どうやら高宮の言い付けを守っているというのは本当の様であった。今にも弾けんばかりの勢いである。
 翔の努力を無駄にせぬよう、慎一は慎重な愛撫で彼へとギリギリの快感を与えていく。
「んっ……あぁっ……慎一……」
 艶やかな喘ぎを発する翔を見つめながら、慎一の股間もまた激ってきてしまう。
「これも勉強だって……高宮さんが言ってたよね……それに、一人前の男にしてやるって……」
 慎一はそう静かに言った。
 虚な瞳で翔が頷く。
 まもなく日は暮れ、夜を迎えようとしていた。


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